ホーム » エッセイ » 【 イスラム国はなぜ、残虐な殺人を続けるのか?日本人が敵としているのは何者なのか? 】《前篇》
後藤健二氏の殺害は『日本の9/11』、日本も米国・英国と同じ危険に直面することになった
すでに多くの国々を敵に回しているのに、なぜ彼らは進んで敵を増やすような行為を続けるのか
ジョージ・パッカー / ニューヨーカー 2月3日
なぜ、日本人2人目の人質である後藤健二氏を処刑してしまったのでしょうか?
ジャーナリストの後藤健二氏が首を切り落されるまで、日本人はすでにイスラム国との戦争が始まっているという認識すらありませんでした。
その時点で日本が行なっている事のすべては、イスラム国と直接戦いを行っている国々に対し2億ドルの人道援助を行うということ、それがすべてである、そういう認識でしかありませんでした。
そしてロンドンなまりの英語を話し、これまでもアメリカ人、イギリス人の処刑を行ってきたジハーディ・ジョン(聖戦士ジョン)がビデオに登場し、これから地球上の日本人すべてを殺害の対象とすると脅した後、後藤氏の首を切り落としてしまったのです。
その結果、東京大学の政治学者がタイムズ紙に語ったように
「イスラム国の残虐な行為は、日本に新しく厳しい現実を突きつけたのです。私たちは日本もまた、アメリカやイギリスが直面しているのと同じ危険にさらされることになった事を理解しなければなりません。」
一部の人々は、後藤健二氏の殺害を『日本の9/11』と表現しています。
ではなぜイスラム国はヨルダンとの交渉を決裂させたのでしょうか?
ヨルダンの『9.11』が発生したのは2005年11月9日でした。
首都アンマン市内の3つのホテルでイラク人による自爆テロが発生、結婚披露パーティーに参加していた27人を含む57人が爆殺されました。
結婚式会場の爆破犯人の一人サジダ・アル・リシャウィという名の新婚女性でした。彼女は無数の爆弾を装着したベストを爆発させることができず、裁判で死刑の判決を受け、ヨルダン国内で服役していました。
このリシャウィ死刑囚と後藤さん、そしてイスラム国の捕虜となっているヨルダン人パイロット、モアズ・カサスベ中尉との人質交換が取りざたされ、そしてその交渉が決裂したものと見られています。
人質の死亡は交渉の決裂が原因なのでしょうか?
イスラム国が次の侵略目標としていると見られるヨルダン国内では現在、イスラム国に対する世論が沸騰しています。
イスラム国は今回の交渉において、金銭的利益もまったくなく、リシャウィ死刑囚の奪還も果たせず、得たものと言えば世界中からの敵意だけでした。
ヨルダン人パイロットを生きたまま焼き殺すという極めて残忍な殺害方法は、戦術的にまったく意味を成しません。
その様子を収録したビデオの3日火曜日の公開など、なおさらのことです。
ヨルダンの人々を憤慨させるだけです。
組織はこの殺害を行ったのはイスラム国であると宣言しました。
彼らはこうした行為が『戦友』の士気を高めると考えているのかもしれません。
一方、グループの状況を見ると、その手元には世界を脅かし、怖がらせ、要求をつきつけるために利用できる人質が尽きかけていることがわかります。
イスラム国の勢力圏内で姿を消してしまった数百に上るシリア人ジャーナリスト、性的奴隷として扱われているヤジド族の女性たち、そして意思に反して支配下にいる何千何万のシリア、イラクの一般人は、残念ながら国際世論に対しそれ程の影響力は持っていないというのが現実です。
イスラム国の攻撃を自分たちの『9.11』であるとする国のリストを長くしていくことに加え、人質たちの『首を切り落とす』ことにはどのような戦略があるのでしょうか?
すでに世界の多くの国々を敵に回してしまっているのに、なぜイスラム国は進んで敵を増やすような行為を続けるのでしょうか?
その結論を出す前に、イスラム国はなぜ戦略的には重要ではない、トルコ国境沿いにあるシリアの都市、クルド人が暮らすコバーニの奪取にこだわったのかを考えてみましょう。
コバーニに対してイスラム国は外国から志願してきた兵士を含め数千人を送り込みましたが、数か月に及ぶ市街戦とアメリカ軍が主導する空爆により、1,000人を超える犠牲を払いました。
クルド人たちは破壊されつくしたコバーニに立ち、大きな犠牲を払って手にした勝利を前に、この戦いが自分たちにとってのスターリングラードの戦いであったと、誇りを新たにしたかもしれません。
コバーニの状況を伝える写真を見る限り、スターリングラードに例えることは決して大げさではありません。
世界はコバーニの人々に借りを作りましたが、もしクルド人国家が樹立されることになれば、この戦いはその重要なマイルストーンとみなされるようになるかもしれません。
しかしなぜ、イスラム国側はかなりの数の戦闘部隊をこの場所で犠牲にしてしまったのでしょうか?
イスラム国のより大きな狙い、それはかつてメソポタミア文明を育んだチグリス川・ユーフラテス川流域一帯を支配することにあるのでしょうか?
しかしそれならなぜ、イスラム国の宣伝担当者は、遠く離れた場所にある国々、日本やフランスを始め数千万数億の人々に対し、YouTubeやツイッターを使ってめったやたらと宣戦布告するのでしょうか?
〈 後篇に続く 〉
http://www.newyorker.com/news/daily-comment/isis-murdered-kenji-goto
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この記事はイスラム国が繰り返す残虐な『殺人』について、際立って他とは違う結論を提示することになります。
その「日本のメディアは言えない」結論は明日公開予定の後篇でご紹介いたします。
ぜひお読みください。
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【 壊滅した故郷を呆然と眺めるクルド人兵士 】
アメリカNBCニュース 2月2日
(写真をクリックして、大きな画像をご覧ください)
25歳のクルド人狙撃兵のムサは1月30日金曜日、ビルの屋上から壊滅したシリアの国境沿いの都市、コバーニの様子をじっと見つめていました。
イスラム国との苦しい戦いを続けてきたクルド人勢力は1月26日、トルコとの国境に近いこの戦いの象徴となった町の奪還に成功しました。
アメリカ国務省の幹部は、米軍が主導する空爆により、1,000人以上のイスラム国兵士を殺害したと公表しました。
その中には数多くの幹部級の兵士、並びにイスラム国の主力戦闘員が含まれていると語っています。
ペシュメルガ(クルド人民兵組織)とシリアの民兵組織は、アメリカ政府がトルコ政府と交渉の上トルコ領内に設置した進出路を通ってコバーニに兵員と物資を送り続け、イスラム国との形勢逆転に成功したのです。
http://www.nbcnews.com/storyline/isis-terror/kurdish-fighter-returns-decimated-syrian-city-n297486