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福島の希望『シニア決死隊』、しかし東京電力は拒否
デイヴィッド・マクニール / ザ・インデペンダント(英国) 10月1日
最新の驚くべき報告は、10年以内に60歳以上の人間が10億人に達すると予測しています。
デイヴィド・マクニールが東京から報告します。
この25年間で最悪の原発事故の発生を見て、自ら進んで収束作業のボランティアを申し出た、初老ではあってもまだまだ壮健な2,300人の年金受給者たちは、『シニア決死隊』と呼ばれることになりました。
72歳の引退した原子力技術者である山田恭暉 (やまだ やすてる)氏に率いられた福島第一原発での豊富な勤務体験に基づき、独自の視点から安全性の検証を行っています。
「私たちはまだまだ元気な上、一生分の経験を積んでいるのです。」
山田さんが語りました。
「何もしないわけにはいかないでしょう?」
日本の年配の人々は、夜になったらただ寝るだけとばかりに、ただおとなしくしている人ばかりではありません。
今年5月、73歳の渡辺珠江さんはエベレスト登頂の、最年長者記録を打ち立てました。
これは彼女にとって2度目の偉業になりますが、挑戦はこれからも続きます。
「これからも毎日鍛錬を欠かさなければ、あと10年は登山を続けられると思います。」
彼女はこう語りました。
彼女は先進国の中で65歳以上の高齢者の割合が最も多近いこの国の、何百万人もいる元気な高齢者の一人です。
日本は今、経験した事のない人口統計学上の異変に遭遇しています。
日本の厚生労働省は65歳以上の人の構成割合が、2060年には4割を上回るという予測を今年発表しました。
この時点で日本の女性の平均寿命は90歳、男性は84歳を上回ることになります。
それにより日本は、地球全体で始まっている変化の、先頭に立つことになるのです。
国連の最新の報告では、この地球上では10年以内に60歳以上の人口が10億人を超えることになります。
驚くべきことです。
10月1日に東京で発行された『21世紀の高齢化 – 祝うべき、しかし解決すべき課題』は国連として初めての高齢化問題に関する報告書であり、増え続ける高齢者問題に対処するため『緊急の対策』を求めています。
200ページの文書は厳しい現実を指摘します。
世界の年金受給者の世代の増加割合が、他のいかなる世代をも上回ると指摘しています。
「世界中で毎秒2人の割合で、60回目の誕生日を祝っています。これを一年に直すと、毎年5,800万人のシニア世代が誕生していることになるのです。」
報告にはこう書かれています。
2050年には発展途上国でも、60歳以上の人口が15歳以下の人口を上回ることになります。
「ちょうど10年で、高齢者の数は、10億人を超えることになります。 10年にわたり約2億人近く高齢者が増加することになります。」
2050年には高齢者の5人に4人が、経済的発展が続く途上国で生きることになります。
その頃には途上国もある程度豊かになっていることが予測されますが、高齢者のための福祉予算は莫大な金額に昇ることになります。
日本は平均寿命が80歳を超える33か国の中の一つですが、5年前はその数は19か国に過ぎませんでした。
「現在この報告書を読んでいる人々の寿命は、80歳、90歳に達することでしょう。100歳ということすらあり得ます。」
国連人口基金と国際高齢者援護機関が3年をかけ、共同で制作した報告書にはこう書かれています。
「2050年までには日本同様、64か国で60歳以上の人口構成比が30%を超えることになります。」
しかし高齢化の進行は一方では「祝うべき現象」であり、たくさんの機会を提供するものであると、この報告書は結論づけています。
「まったく新しい健康管理と退職後の生活の創造」その他さまざまな課題の解決を達成すべき「大いなる挑戦」の機会をもたらすことでしょう。
「しかし迅速に取りかかる必要があり、そうしないとこの問題の余波は準備ができていない国に襲いかかり、その国は慌てふためくことになります。」
そのような状況の中、日本は最良の参考例です。
この国の高齢者は著しい成功を収めた社会の、ひとつの基準と言えるでしょう。
満ち足りた食事、健康管理と福祉、それが世界最高の平均寿命が尽きるまでついて回るのです。
「老化が進むという事は、人が老いを迎えるまで不慮の死をとげることが無い、という事です。そしてそのことはその国の社会が如何に成功した社会であるかを、表現していることになります。それはそうなのですが…」
東京にあるドイツ日本問題研究所所長で、人口問題の専門家であるフロリアン・クルマスがこう語りました。
「しかし、一方でそれはやっかいな問題をもたらします。それこそが今、私たちが経験していることなのです。」
もっとも大きなのが、老齢年金基金をどう成立させていくか、という問題です。
多くの人々が世界最大規模で、加入者6,000万人の、巨大な日本の年金システムの存立を危ぶんでいます。数年の内には、支払い義務を完了できなくなってしまいます。
こうした恐れもあって、年金基金は今年から新興国経済市場への投資を始めましたが、結果は惨憺たるものでした。
日本政府は財政的に行き詰ってしまった企業年金が、全体の6分の1に上るものと見ています。
ほとんどの先進国がそうであるように、日本もまた巨額の公的負債を抱えています。そして移民については極端な程の制限を行っているため、人口も減少を続けています。
前出のクルマス氏は、これから先一体だれが年金を支払っていくのか、誰にもわからないのだと語りました。
「戦争も無い、疫病が流行った訳でもない、飢饉があった訳でもない、しかしどの国も経験したことの無い政策の手直しを必要としているのです。しかしこの国の政治家たちには、これが本当の国家的危機なのだとは、わからなかったようです。」
年金制度に仕掛けられた時限爆弾の爆発を遅らせる唯一の方法は、国民をより長く働かせることです。
日本政府は今年、民間企業の定年を65歳に引き上げる法案を可決させました。
この年齢に該当する人々600万人が、既に労働者として働いています。
国連の報告書は世界の男性高齢者の半数近く(47%)と女性高齢者の4分の1(24%)が労働市場に留まっています。
「社会的にも、経済的にも、まだまだ貢献できるにもかかわらず、健康できちんと働ける高齢者が、世界中で今も続く差別、虐待や暴力などの問題に直面させられています。」
国際高齢者援護機関の最高責任者を務めるリチャード・ブリュウィットは世界が、彼が言うところの『広がってしまった、高齢化問題に対する誤った対処』を止めるよう望んでいます。
「具体的な、費用的にも効率の良い進歩は、生まれた瞬間から高齢化対策を施すことなのです。今やそのほとんどの人々が高齢になるまで生きていくことは、わかりきったことなのですから。」
国連の報告書は世界的規模で、そして国家的規模で高齢化に備えた人材開発を行うよう求めています。
そして「爆発的に増え続ける60歳以上の人々を、成長の原動力、そして新たな価値を創り出す人材へと変身させるための道筋を作る事」を求めています。
誰かが、東京電力にレポートを送るべきかもしれません。
今も危険な状態が続く福島第一原発を運営するこの会社は、冒頭でご紹介した山田さんたちの協力の申し出を、いかなる追加の作業員も『必要ない』として断ったのです。
「おかしな話です。」
引退した技術者である山田さんが、アメリカ人の聴衆を前にこう講演しました。
「多分、東京電力は私たちの能力について、正しい理解ができないに違いありません。」
http://www.independent.co.uk/news/world/asia/japan-the-grey-planets-ticking-timebomb-8191524.html