ホーム » エッセイ » 【 アベノミクスの経済効果?! それどころか、足元が危なくなってきましたよ?】[エコノミスト]
新興国経済の減速と消費増税、肩を並べてやって来る不気味な兆候
貿易赤字を拡大してしまった円安誘導、アベノミクスは『正解』だったのか?
国家主義発言騒動、その陰に隠れて進行する産業の一層の空洞化
エコノミスト 2月21日
もうすでに2014年という年が、安倍首相が打ち出した『日本経済の復興』プログラムについての審判の年になりつつあります。
ここ数週間というもの、日本にとって悪い材料ばかりが煮えたぎる大釜の中に放り込まれてきました。
4月になれば、消費税率が現行の5%から8%に引き上げられることになっています。
懸念されるのは、現在回復基調にある消費者心理に悪影響を与え、国内の出費と消費が落ち込んでしまう事です。
いちばん最近の例では、1997年4月に消費税が3%から5%に引き上げられた際、同時に財政再建のため政府の公共事業支出が思い切って削減され、まわりまわってその影響はアジア全体に及び、7月にタイを震源に発生したアジアの金融危機を一層悪化させる原因の一つになった可能性があります。
消費増税と公共事業費削減の複合効果は、当時の日本経済を本格的な低迷へと向かわせました。
最初の歓迎されざる驚きは、これまで順調に成長を続けてきた新興国市場で連続して発生した混乱であり、1997年のアジア通貨危機を思い出させる不気味な足音を響かせています。
1997年から1998年にかけての危機と比較すると、今回の場合リスクは地理的には分散していますが、ここの所再び円高の傾向が続いていることも相まって、国外の投資家はリスクを嫌って日本の株式市場において 手持ちの株を売る動きを見せ始めています。
日本経済を支える重要な柱のひとつが輸出産業ですが、その輸出の半分以上は中国を含めた新興国向けだからです。
2つ目の衝撃は、2月17日の発表の期待外れの内容でした。
2013年度第4四半期の実質的な年率換算の経済成長率は1.0%前後の数値に落ち着くものと見られますが、この数値は経済学者などが予測した2.8%をはるかに下回っています。
第3四半期の1.1%という期待外れの成長の後、第4四半期についての新しい結果は、2013年の経済成長の見通しに関する、これまでの楽観的な見通しに終止符を打つことになりました。
これまでは日本経済成長がG7加盟国のどこよりも速いペースで回復を続けていると報告されていました。
実質国内総生産は、第1四半期に年率換算で4.5%、そして、第2四半期には3.6%の成長を記録し、順調な回復を印象づけました。
第4四半期の成長を鈍化させた第一の原因は輸出の不振でした。
堅調な国内需要と財政支出の相乗効果によって成長率が3%押し上げられましたが、貿易黒字の急激な減少が1.8%のマイナスとなりました。
この結果は安倍首相の経済政策の要のひとつである円安誘導が、結果的には正しかったのかどうかという疑問を突きつけることになりました。
国内の原子力発電所の停止に伴い、発電用の燃料を輸入する必要に迫られた日本は、円安が加わったために輸入コストが高額に昇ったことも輸出不振の一因を作りましたが、主な原因とまでは言えません。
日本の貿易赤字は1月に2兆7,900億円にまで拡大し史上最高額となりましたが、3番目となる日本経済にとっての本当の懸念材料は別にあるのです。
日本国内のエレクトロニクス関連製品の中で、いま、輸入製品の消費が増え続けています。
日本のスマートフォン市場では海外製品の優勢が続いていますが、日本経済新聞が報じた経済産業省の試算に基づけば、この結果日本の貿易収支を2兆3,000億円悪化させているのです。
海外製スマートフォンは輸入全体の5分の1を占めています。
第4四半期にはアップルのiフォンは、日本国内のスマートフォン売上全体の実に70%を占めるに至っています。
そして再び『産業の空洞化』が進もうとしています。
各地の地方企業が生産設備の海外への移転を準備し始めています。
これまで日本企業は生産コストを引き下げるために生産設備の海外移転を進めてきましたが、今度の場合、その理由は消費地に近いこと、そして円安による輸入材料の価格高騰を回避するためです。
これまでの数年間、欧米の企業が海外移転を積極的に推進してきたのに比べ、日本は国内の雇用状況を悪化させないようにするため、どちらかと言えば海外移転を思いとどまってきましたが、ここに来て歯止めがきかなくなってきました。
他の通貨との兼ね合いもあり、今回の円安誘導は国内の輸出企業の輸出を直接促進することはできませんでした。
ここ当面は投資家たちは悪い材料を無視しています。
その主な理由は日本銀行による金融緩和策の第二弾が、近々実施されるとの予想があるからですが、期待外れに終わった第4四半期の経済成長率が何らかの動きを引き出すとすれば、日銀がこの対策の実施を急がなければならなくなったという事でしょう。
2月中旬になって日本銀行の黒田総裁は、市中銀行への貸出量を倍増させ、期間も倍に延長すると発表しました。
目的は金融緩和策の効果を徹底して波及させるためです。
現在のところ其の影響は限られたものに留まっていますが、市場では日銀は近々さらなる金融緩和策を打ち出すことになりそうだとの予想がささやかれています。
しかし現在のところ明るい材料が見えているのは、好調な国内消費だけであり、その国内消費も4月の消費増税によりどう転ぶか解らない状況にあります。
安倍首相が掲げる公約の一つ、日本経済の持続的成長に必要な構造改革は、少なくとも夏までにはどのような進展もなさそうです。
経済問題に火がつきつつある中、日本政府は安倍首相の持論である国家安全保障問題に軸足を移してしまいました。
安倍首相は昨年12月、一般戦没者に加え国際社会において悪名高いA級戦犯の霊を祀った靖国神社に参拝し、日本は経済問題に専念することが出来なくなってしまいました。
しかし本来経済問題に取り組むべき人々は、日本経済の動きを注視しつづける必要があります。
http://www.economist.com/blogs/banyan/2014/02/japans-economy?zid=306&ah=1b164dbd43b0cb27ba0d4c3b12a5e227
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現在の日本政府 - 安倍政権について海外の報道は、ここで翻訳・ご紹介しただけでも多くのものが欠けている事を指摘してきました。
国民と正面から向き合った議論( http://kobajun.biz/?p=16606 )
欧米先進諸国の戦略に関する理解( http://kobajun.biz/?p=16831 )
公共放送の中立を守るという見識( http://kobajun.biz/?p=16429 )
日本各地の事情に応じた考え方を尊重する謙虚な姿勢( http://kobajun.biz/?p=16270 )
等々、数えきれないほどありました。
そして今回の記事を通しては、「まずは日本の経済の再生に専念する」という公約を、わずか1年で人ごとにしてしまおうとする政権の姿が見えてきます。
国民のために政治をするのではない、自分たちのために国民を利用する、そんな政治に従順であってよいのでしょうか?