ホーム » エッセイ » 安部首相に国民の信任は無い – 安部首相の敵は平和主義
欠陥のある選挙制度と戦後2番目に低い投票率の選挙での勝利に、国民は納得していない!
立憲民主党は平和主義を守り、安倍政権下で拡大した貧富の格差を縮小に取り組む姿勢を打ち出した
国際紛争解決のため軍事力の行使を禁止する憲法、その条文の削除もねらっている安倍首相
エコノミスト 2017年10月27日
安倍首相は総選挙の翌日、自分が自民党に新たな歴史を刻んだことを誇示しました。
彼が率いる仏教団体の創価学会に支えられる公明党との連立与党は2017年10月22日に投票が行われた衆議院議員選挙で大きな勝利を収め、衆議院議員選挙において3回連続で地滑り的勝利を収めた事になります。
参議院選挙も含めれば5回連続で勝利したことになります。
この結果を受け、総理大臣としての任期を4年延長することになれば、第2次世界大戦以降日本最長の首相となる可能性が出てきました。
この見通しは今回の選挙前に支持率が急落しただけでなく、政治的立場が危機的状況に陥ることが多く、多数の有権者から徹底的に嫌われている政治家、すなわち安部晋三氏にとっては願っても無い素晴らしい展望です。
安倍首相は現在、日本国憲法の平和主義的表現を書き換えるという、長年抱き続けてきた目標を達成するチャンスをその手に握っています。
自民党は現在衆議院において465議席中281議席を占め、安倍氏が勝敗ラインとした単独過半数をはるかに超えている議席を持っています。
この結果は衆議院で10議席削減される中での結果であり、安部自民党が全体の中でより大きなシェアを持つことを意味しています。
公明党が得た結果はそれほど良くはありませんでした。
しかし公明党の29議席に加えて3人の無所属候補者の支持により、安部首相は衆議院において3分の2の議席を支配することになり、たとえ参議院の承認が得られなくとも大部分の法律を通過させる能力を持つことになりました。
しかしこうした結果に多くの国民は納得していないように見えます。
今回の選挙の投票率は戦後2番目に低いものになりました。投票日に台風が接近し、各地で大雨になったためです。
自民党への投票理由の多くは現状維持を望むか、あるいは朝鮮半島の緊張が高まり続けることへの不安によるものでした。
自民党の勝利はまた、対立する野党の分裂と混乱の恩恵も受けました。
野党第一党の民主党の首脳は、東京都知事の小池百合子氏が設立した新党「希望の党」の旗の下での候補者選出を決めました。
一時は与党側に対し深刻な脅威を与える可能性も取りざたされましたが、結果は選挙前に民進党として保有していた57議席のうち7議席を失うという結果に終わりました。
政策の行方が有権者にわかりにくいということも一因でしたが、小池氏が自分の保守的な方針に従う民進党議員のみを受け入れ「他は排除する」と表明したことが、多くの有権者を去らせることになりました。
行き場を失った民進党の左派系議員が再結集し、投票日の3週間前に結成されたのが立憲民主党でした。
希望の党の200人に対し、立憲民主党が擁立できた候補者は78名に留まりました。
しかし立憲民主党は善戦し、衆議院において自民党に次ぐ勢力を持つ野党第一党になりました。
選挙前と比べ約3倍に議席数を増やしたという事実は、安倍首相に対し有権者が大きな不満を持っていることを象徴するものです。
立憲民主党は憲法に基づく日本の平和主義を守り、安倍政権下で拡大した貧富の格差を縮小したいと表明しています。
しかし立憲民衆党が安部首相の前に大きく立ちはだかるというわけにはいかないでしょう。
安部首相は選挙戦に勝利した翌日、日本が他国並みに軍事力を制限している日本国憲法の改定が「主要政策」のひとつとであると表明しました。
安部首相は自衛隊を正規の日本国軍として明記するよう、憲法第9条の条文を変更したいと考えています。
そして国際紛争解決のための軍事力の行使を禁止している憲法の条文も削除してしまう事を望んでいますが、平和主義の存続を願う多くの日本国民と敵対することを恐れ、この点についてはあまり強くは言っていません。
安倍首相の目標は、現状に合わせて憲法の条文を変えようというものです。
自衛隊は世界でも有数の規模と装備を持った軍隊です。
2014年には憲法の解釈変更を行い、同盟国が攻撃を受けた場合には日本は援護のための軍事行動ができるようにしました。
2015年に制定された複数の安全保障関連法案は、同盟国の「集団的自衛権行使」のために自衛隊を海外の紛争地域への派遣を可能にしました。
しかし憲法の文言は、日本人兵士を危険な戦場に送り込むことに反対する政治家に有利です。
米国を含む一部の国々は、安倍首相が日本はこうした制約を撤廃すべき段階に至っているという主張を支持しています。
太平洋戦争の戦前戦中に日本軍の残忍な統治支配の記憶が悪夢として記憶に刻みつけられている中国や韓国を除けば、この段階で日本軍国主義の復活を恐れる国はほとんどありません。
しかし憲法の変更は容易ではないでしょう。
安倍首相が率いる連立与党は国会の両院の3分の2を支配し、憲法改定の発議に必要な要件を満たしています。
日本第二の都市である大阪に支持基盤を持つ維新の党と希望の党も改憲に前向きです。
しかし憲法第9条に手をつけることは、政治的には難問のままです。
いかなる変更も国民投票により半数以上の支持を獲得しなければなりません。
そして結果がどうなるか、確実な見通しは存在しません。
▽ 間合いを測る
安倍首相がどのタイミングで改憲に着手するのか現時点では不明です。
彼はすべての政党の同意を得て改憲を実現したいと語っていますが、その希望に立憲民主党が沿うことは不可能でしょう。
2018年9月に予定されている自民党の総裁選挙に勝利し、新たな任期を手にした上で会見に着手するだろうと見ている人々もいます。
2019年には統一地方選挙と参議院選挙があり、翌年には東京オリンピックが開催されます。
こうした状況から、安倍首相は来年末までに改憲法案を国会に提出したいと考えているかもしれません。
他の分野における政策はあまり変わり映えがしません。
安倍首相は2019年10月に予定されている消費税の増額による収入の一部を幼稚園の無料化に充てると公約する一方、日本が直面するもう一つの大きな課題、すなわち人口の高齢化にどのように取り組むべきかについてはほとんど言及していません。
選挙中に実現を約束した優先事項は、残業時間を制限するだけでなく、悪名高い日本のストレスのかかる労働環境を変える『働き方改革』法案の整備を推進することです。
選挙戦には勝利したものの、安部首相の立場はもろさを露呈し続けるでしょう。
来年予定されている自民党総裁選挙で、安倍首相に挑戦しようとする人間は今のところ現れていません。
しかし今年の初め、2件のスキャンダルに関係しているとの疑惑を持たれた後、安部首相の支持率が急落したことを、ライバルと目される人々、そして有権者も忘れてはいません。
保守的なメディアの編集者でさえ、安倍首相が経済政策をおざなりにしたまま改憲に夢中になったりしないよう警告しています。
彼は彼の政治的な抜け目のなさを充分証明しました。
しかし安倍首相に対する国民の負託は脆弱なものです。
https://www.economist.com/news/asia/21730551-mr-abe-wants-japan-be-normal-military-power
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アメリカ大統領トランプ来日の際の日本の首相の阿諛追従ぶりには、右派左派を問わず心ある日本国民が失望や失笑に似た感想を持ったことでしょう。
フランスやドイツの首相ならもっとずっと毅然としていたに違いありません。
しかしゲッペルス率いるナチスドイツの宣伝省並みに国家の宣伝機関と化した『国営放送』NHKの報道などを見る限り、そうした国家的愚劣さとも言うべき様子は伝わってきません。
国営放送局から『国策放送局』に変質してしまったNHK職員諸氏であっても、1944年から1945年にかけて『大本営発表』と称して虚報を日本中にばらまいた戦争犯罪とも言うべき報道によって、最終的に国民がどれ程悲惨な目に遭わされたか、その知識が無い訳ではないでしょう。
しかしもう、かつて『映像の世紀』や『オリバーストーンが伝える現代アメリカ史』のような「NHKならではの」スペシャル番組など、「後のたたりが怖くて」作りたくないのかもしれません。
だからこそ、こうしたエコノミストの記事に代表される『はるかに広い視野を持った正論』を、何とか一本でも多くご紹介しなければならないという思いを新たにしています。