ホーム » エッセイ » 【 日本の原子力 : 再稼働推進策の前に立ちふさがった司法の判断 】
付近にはいつ動くかわからない活断層と活火山の存在、にも関わらず川内原発は安全に稼働可能だと判断した九州地裁
国民の懸念に向き合うことも無く、様々な指摘を顧慮することも無く、再稼働を強行する安倍政権
原子力産業界の安易な計算と予測を覆した日本の脱原発運動
エコノミスト 4月25日
世界最大の原子力発電所は日本の沿岸にあり、ほぼ4キロメートルに渡り海岸線を占有しています。
この原子力発電所がフル稼働すれば、約270万世帯分の電気を生み出すことが出来ます。
しかし他の日本の原子力発電所と変わること無く、柏崎刈羽原子力発電所の7基の原子炉は遊んだままになっています。
福島第一原発が事故を起こしてから4根が経過しましたが、日本国にある48基の原子炉すべてがその安全性について疑問を持たれています。
かつて日本の電力のほぼ3分の1を生み出していた原子力産業は、機能していません。
日本政府としては高額に昇っているままの原油や石炭などの化石燃料の輸入代金を減らすため、できる限り多くの原子炉を再稼働させたいというのが本音です。
4月22日、九州にある川内原子力発電所の2基の原子炉の再稼働を阻もうとした訴訟において、再稼働の差し止めが却下されたことで、日本の原子力産業界はいくぶんか生色を取り戻すことができました。
付近一帯にはいつ動くかわからない活断層があり、活火山があるにも関わらず、九州の裁判所は川内原発は安全に稼働させることが可能だと判断したのです。
この判決を受け経営する九州電力は、早ければ今年7月にも再稼働を実現出来るものと考えています。
しかしこの判決の1週間程前、柏崎刈羽原子力発電所から海岸線をずっと南下した場所にある別の原子力発電については、対照的な判決がくだされました。
関西電力に対し、経営する高浜原子力発電所の2基の原子炉の再稼働を禁ずる命令を発したのです。
判決では、福島第一原発の事故後に導入され、日本政府が世界一厳しいと主張している新たな安全基準が、新たな原発事故が発生しないということを保証することなど出来ないことを指摘しました。
高浜原発の原子炉が再開されることになれば、法廷は地元の市民に対する「差し迫った脅威」が生じることになると警告したのです。
この判決は政府を驚かせました。
日本政府は、2030年段階で日本の電力需要の20%を原子力発電によって賄うとする新しいエネルギー計画を作成しています。
福井地裁の判決が政府の計画を狂わせることは無いと、菅義偉官房長官は主張し、日本の新しい安全基準が世界で最も厳しいもののひとつであると繰り返しています。
そうした信頼が原子力発電にはあると考えることが、そもそも誤りであるかもしれません。
再稼働しようとしている日本国内の原子炉すべてが、再稼働の差し止めを求める地元の住民たちの訴訟の対象になっています。
これに対し各電力会社と日本政府は、福島第一原発のような事故が発生することを完全に防ぐことは出来ないものの、可能な限り原子力発電を安全な確保なものにすることが出来ると主張していく事になるでしょう。
そうした議論を拒絶することにより、福井地裁は他の裁判所が同様の判断を行うための先例を示したことになるかもしれないと、かつてG8サミットで気候変動担当政府代表を勤めた西村六善(まつよし)氏が語りました。
関西電力はこの判決を不服とし、判決を覆すべく上告することになるだろうと専門家は見ています。
しかし法廷での闘争が長引けば長引く程、原子炉の寿命は尽きていくことになり、結局は再稼働の実現が不確かなものになとて行きます。
現在、日本の核監視機関である原子力規制委員会は、新しい安全基準に適合するかどうか、20基の原子炉について審査を行っています。
フランスの巨大原発企業、アレバの元最高責任者だった故ルク・ウルセル氏は2013年、結局は日本の原子炉の3分の2が再稼働することになるだろうと予測しました。
現在それを信じる人はわずかです。
福島第一原発を文字通りの死の廃墟にしてしまった東京電力にとって、再稼働は死活問題です。
柏崎刈羽は、東京電力にとって生き残ることが出来る可能性を持つ唯一原子力発電所です。
東京電力は原子炉が稼働できないことによる損失は、1基あたり年間1,000億円に昇ると主張しています。
柏崎刈羽原子力発電所の横村所長は、東京電力がこれまで地震と津波の対策のため、2,600億円をつぎ込んだと語っています。
横村所長に言わせれば、柏崎刈羽原発の7基の原子炉を再稼働させられない理由は見当たらないのです。
原子力発電はいまだに、一般国民の信頼を取り戻すことが出来ていないのです。
http://www.economist.com/news/asia/21649557-court-cases-frustrate-efforts-restart-japans-nuclear-plants-legal-fallout?zid=306&ah=1b164dbd43b0cb27ba0d4c3b12a5e227
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この記事で取り上げられている川内原発の再稼働については、まさに
『政府に有利な判決を下すことは、日本の裁判官にとっては出世と保身の前提条件』( http://kobajun.biz/?p=23027 )というニューヨークタイムズの指摘通りの判決となりました。
こうした司法官としての良心を疑わせるような行為を繰り返させようにするには、ニューヨークタイムズやエコノミスト、ガーディアンなどの記事を繰り返し翻訳し、一人でも多くの方にお読みいただき、そして声を挙げていただくのが、現体制下では有効な方途のひとつだと考えています。
これからもおつきあいください。