ホーム » エッセイ » なぜ自民党は選挙に勝ち続けるのか?:政治理念より支持者への見返りが第一
これほどの政治支配はアメリカやヨーロッパの民主主義国家ではあり得ない
派手なインフラ事業で現金と雇用を大盤振る舞い、ただでさえ危機的状況の公的負債を積み増す安部政治
むずかしい問題の本質的な解決はすべて先送り、支持者を潤わせればそれで良いという情実型の選挙戦術
エコノミスト 2017年10月12日
今治市は四国と本州を分ける瀬戸内海を見下ろす場所にある美しい中世の城(今治城 : 冒頭の写真)で知られています。
しかし近頃では別のランドマークが注目されています。
それは今治市を上から見下ろす場所に建設中の魅力的なカレッジキャンパスです。
公共の場所に建設され、政府の助成金96億円によって成立した事業でしたが、建設半ばのこの獣医学部は、巨額の助成金が交付されることになった背景には安倍晋三首相の存在があったという主張がつきまとっています。
元文部科学省の官僚は、同省が仲間が経営する新しい大学に許認可を与え補助金を交付するために、安部首相が影響力を行使したと主張しています。
首相側はこれを否定しています。
野党の政治家は、今回安倍首相が10月22日が投票日となる衆議院の解散総選挙に打って出た理由の一つは、この加計問題に関するさらなる質問をうまく切り抜けようとしているのだと指摘しています。
しかしこうした一連の問題も、安倍首相が率いる自民党に対し今治市民が向き合う姿勢にはほとんど影響を及ぼしてはいないようです。
「多くの人が悪魔と知りつつも、これからも支持を続け恩恵にあずかろうと考えているようです。」
今治市で商店を経営する高須佳子さんがこう語りました。
四国地方は長年にわたり自民党の拠点となってきた、地元野党の政治家である福田剛氏がそう指摘しました。
今治市議会では32議席中27議席、県議会では47議席中26議席を自民党とその与党議員が占めています。
衆議院議員選挙を見てみると、2014年の選挙では四国の小選挙区11席のうち自民党がとれなかったのは1議席、比例代表では6議席中3議席を獲得しました。
自民党が全国的規模で敗退した2009年の選挙でも、四国地方に限っては小選挙区13議席中の8議席と比例代表で2つの議席を確保しました。
安倍晋三首相が率いる自民党は1955年以降、数年間を除き権力を握り続けてきました。
政治学者の猪口孝氏は、これほどの政治支配はアメリカやヨーロッパの民主主義国家ではあり得ない状況だと指摘しました。
この「あり得ない形」の原因の一つに日本の選挙制度があります。
四国のような保守的な農村部には、国政に対する大きな発言権が与えられています。
最高裁判所がこれまでの制度を違憲としたため、日本政府は気が進まぬ様子ながら一票の格差を縮小する方向に動きましたが、自民党は依然として利益を得続けていると、東京大学のケネス・マックエルウェイン氏が指摘しました。
政治への無関心も自民党に有利に作用しています。
2014年の衆議院選挙の投票率は52%であり、第2次世界大戦以降最低の水準でした。
しかし自民党は政治理念よりも現実的利益を優先させることで、揺るぎない支持を得ています。
自民党は保守的であるとよく言われていますが、一方では昔ながらの社会民主主義的な政策も看板として掲げています。
年金制度を守る姿勢を強調し、大盤振る舞いをして派手なインフラを構築して四国のような場所にも現金や雇用をもたらし、ただでさえ危機的な状況にある公的負債を積み増しています。
その例として1999年には、本州と四国を結ぶ巨大な橋を建設するシリーズの仕上げとして、10本目となる今治と本州を結ぶ優雅な橋が完成しました。
ちょうどその1年前には、約170km離れた四国と本州とを結ぶ3本の橋が落成しました。
安部首相が財布のひもを握っている日本政府による一連の大規模な景気刺激策は、回復への足取りの重い日本経済の実態が表に出ないようにする効果を発揮しています。
他の先進各国ではどの政党も国家財政を健全化させることに最大の責任を持とうとしている、こう考えるのは河野太郎外務大臣です。
「日本では、大きな政府と小さな政府という両方の政策をひとつの政党が担っているのです。」
今治市の経済を支えてきたのは、自民党に絶対的な忠誠を誓う造船業や繊維会社の経営者たちでした。
しかしこうした産業は近年衰退の一途をたどり、地元の人口縮小も歯止めがかかりません。
しかし地元野党の政治家である福田剛氏によれば、相変わらず多くの人々が自民党の方を向いています。
これまでこうした伝統的産業は衰退を続けてきました。
人口減少もさほど気にはしていないようです。
しかし日本の有権者たちは長い年月をかけ日本がどう変わったかという事より、政治に期待すべきものは選挙が終わった後に自分たちがどんな見返りを得られるのかという点にある、そう完全に割り切ってしまっているようです。