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音楽家と求道者 マイルス・デイヴィスとジョン・コルトレーン

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所要時間 約 6分

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クラシックの分野でも、フルトヴェングラー、ワルター、トスカニーニ(個人的には好きじゃありません)という、1950年代に亡くなった指揮者をしのぐ指揮者が50年経った今でも現れないように、ポピュラー音楽でもビートルズ、ローリング・ストーンズ、レッドツェッペリン、ピンクフロイドなど1960~70年代を中心に活躍したバンドを超えるミュージシャンが現れないように、ジャズの分野でも、トランペットのマイルス・デイヴィスとサックス(テナー、ソプラノ、アルト)のジョン・コルトレーン、それにピアノのビル・エヴァンス(私は個人的にはエロール・ガーナーの方が好みなのですが)を超えるジャズ・プレーヤーも現れてはいないようです。
なぜなんでしようね。
フルトヴェングラーやワルターの音楽が、きわめて深くなって行ったのは解るような気がします。本来まれに見る音楽的資質に恵まれた2人。彼らは5年以上の第二次世界大戦を経験させられ、ワルターはユダヤ人としてヨーロッパを追われ、フルトヴェングラーは戦後いわれなき『ナチ協力者(いわゆる三大指揮者の中で唯一ナチス時代のドイツに留まり指揮活動をしましたが、親ナチスではなかった、とする見方が一般的です)』としてのレッテルを貼られ、ともに深い精神的苦悩を味わいました。オーケストラの指揮者はその精神構造が如実に演奏に現れる、といわれており、常人ではあり得ない深い苦悩が、もともと他に抜きん出ていた二人の音楽性をさらなる高みへと導いた事は容易に想像できます。

さて、今日はジャズの方のお話です。
主人公の1人、マイルス・ディヴィスは1926年、アメリカで生まれましたが、父は歯科医であり、母は音楽教師、そして姉は正規の音楽教育を受けた人であり、黒人でありながら恵まれた環境に生まれ育ちました。
一方、コルトレーンですが、マイルスと同じ1926年生まれ、父親は洋服の仕立てとクリーニング業を営み、黒人としては中流階級に属していたと思われますが、母親の方はオペラ歌手を目指しカレッジで音楽と教育学を学んでいます。
どちらも自身が音楽を始めるには、十分以上の環境に恵まれていたと言えるでしょう。少なくとも「どん底から這い上がるため」音楽を志した訳ではなかったようです。
先に有名になったのはマイルスの方でしたが、マイルスのバンドに加入したコルトレーンも徐々に認められて行きます。
ごくごくおおざっぱな話になります。
コルトレーンがフリージャズに『転向』する直前の音は余韻があり、中毒になりそうな程きわめて深い音色を出しています。
一方のマイルスも弱音器をつけてからの音は、まったく無駄がなく、こちらは日本の禅やわび・さびに通じる無限の空間と言ったものを感じさせます。ウルサイ、と感じる音は絶対に出しません。

この後、コルトレーンはフリージャズに、マイルスはフュージョン、ファンク傾向へと音楽を変化させて行きます。
ただ、転向してからのコルトレーンの演奏というのは音楽をしている、というよりは道を究めようとする求道者のようになってしまいました。一人山に籠り、孤独な修行を続ける剣術使いや格闘家と変わらない世界に生きていたような印象があります。
「その場で感じる事をそのまま音にするのだ」と言って凄まじい気迫を込めた音を出し続け、やがて枯れるように40歳の若さで他界してしまいます。
後期の彼の演奏は調声もリズムも曖昧で、わたしのようなごくごく一般の音楽ファンからすると、ちょっとワカラナイ方向に行ってしまった観があります。
このワカラナイ、という部分だけを真似たセミプロ、アマチュアがやたらサックスをブカブカやって一時ワケノワカラナイ「ミュージシャン」が巷に大量発生したりしました。言わせていただきますが、ワカラナイとワケノワカラナイはまったく次元が違います。
一方のマイルスの音楽は、ジャズファンでなくとも充分に楽しめる、音楽の幅をどんどん広げて行きました。その広がり方も大衆化する、というよりは音楽として普遍化する、という展開を見せ、クラシック・ファンやロック・ファンなどの中にもリスナーが増え続け、晩年には単にジャズに留まらない、音楽界の巨人として「帝王」の名を奉られたりしました。
最後まで【音楽家】であろうとした、マイルス。
【求道者】になってしまったコルトレーン。
あなたはどちらに惹かれますか?

今日の動画はマイルスとコルトレーンの競演、マイルスの作品で今やジャズ・ナンバーの名曲中の名曲「So what ?(だから、何?という意味ですが)」の演奏をご覧ください。もっとも、この時点ではコルトレーンはマイルス・バンドの「一員」なので、それほどソロは長くありませんし、まだ、ワカラナイ方向にも行っていません。
ジャズはあまり聴いた事が無い、という方、この曲をお聴きいただいた後は、胸を張って
「オラ、ジャズなら知ってるもん。」
とおっしゃってくださいね。

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ほんとうの「今」を知りたくて、ニューヨークタイムズ、アメリカCNN、NBC、ガーディアン、ドイツ国際放送などのニュースを1日一本選んで翻訳・掲載しています。 趣味はゴルフ、絵を描くこと、クラシック音楽、Jazz、Rock&Pops、司馬遼太郎と山本周五郎と歴史書など。 @idonochawanという名前でツィートしてます。
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