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崩壊から10年 :『復興』の現実は無い《後編》

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所要時間 約 13分

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日本を福島第一原発の崩壊以前の状態に戻すことはできない
福島第一原発の崩壊という事実を記憶から消し去り、すべてを無かった事にしてしまいたい原子力行政と産業界
福島第一原発の放射能によって汚染された被災地は、オリンピック開催にとって邪魔な存在でしかない

約1,000万個の大きな黒いバッグにいれられ、福島県内各所に『一時』保管されている放射性廃棄物

                    

                      

アーニー・ガンダーセン / フェアウィンズ 2021年3月30日

                   

2. 関東以北の放射能汚染は解決していない

                      

核分裂の連鎖反応が停止した時点で、それまでに分裂したウラン原子の危険な残骸は婉曲的に『核分裂生成物』と呼ばれ、何世紀にもわたって放射能を出し続けます。
2011年3月の福島第一原子力発電所1号機、2号機、3号機の3回に及ぶメルトダウンと爆発により、これらの核分裂生成物が環境中に大量に放出されました。

                     

当時吹いていた風がこの放射性物質の80%を太平洋に運び出し、残りの20%が関東以北の各地に降下し、約16万人の日本人が先祖伝来の土地から避難せざるを得なくなりました。

                   

人の手が入らなかった場所では、汚染物質の半数以上を占めていた崩壊年数の短い放射性物質は、これまでの9年間ですでに放射性崩壊を終え、さらに多くの放射性物質が台風や雨風によって太平洋に流れ込みました。
日本政府により除染作業が行われた場所では汚染物質がさらに減少しました。
初戦の結果1000万トンを超える放射性物質が収集され、数百カ所に及ぶ一時保管場所で約1,000万個の大きな黒いバッグに保管されています。

                    

                     

しかし福島県の70%以上は山岳地帯のため、除染されていません。
福島県の70%以上は今後も除染されることはないのです。

                     

日本政府による放射能汚染を取り除く除染の取り組みは、メルトダウンによって住民が避難せざるを得なくなった都市部や住宅地にのみ焦点を当てていました。
我々は人間の居住地域と非居住地域、そして福島県内のオリンピック聖火リレーの予定通過道路を調査しました。

                   

聖火リレーの予定路線の10メートル以内は除染作業が行われたために放射能汚染が比較的少ないことがわかりましたが、同じ計測方法を用いて調査した路線から30メートル離れた森の中の汚染レベルは5倍近く高いことが判明しました。

                   

福島県内全域を完全に除染する事になればその労力も費用も天文学的な高さになるため、日本政府は人間の居住地域のみの除染に力を注いできました。

                

最初の限られた範囲での除染の後、避難によって放棄された市町村の再居住を促すため、放射線被ばくの『安全基準』を年間1ミリシーベルトから20倍の20ミリシーベルトに引き上げました。
20倍の量の放射線を浴びるようになれば、放射線が誘発するがんの発症確率は20倍に上ります。
制限が一気に引き上げられた事により危険性が高まってしまった事を認識したかなりの割合の住民が、もう戻らないという選択をしました。

                     

3. 再び放射能に汚染された『除染完了』地区

                       

                   

南相馬市は福島第一原子力発電所崩壊の危機が頂点に達した際、放射能に汚染され、全域から住民が避難しました。
数年後、市内の除染作業が完了し、かつての住民の再居住が許可されました。
南相馬市役所も除染が行われ、2011年のメルトダウンを受け、新たにエポキシ樹脂の屋根が設備されました。

                          

フェアウィンズのチームは2016年と2017年、すでに『除染が完了』した4階建ての屋根からサンプルを収集し、どこにでもあるはずの放射性セシウムが比較的少ない状態で高レベルのアルファ線の存在を確認しました。
これは除染が行われていない地域からの風などによって汚染物質が飛来し、居住可能であると宣言された地域を再日汚染していると解釈するしかありません。

                     

4. 汚染が残る福島県のオリンピック会場

                      

東京郊外は、福島第一原発の原子炉から約200km離れた場所にあります。
東京都内のオリンピック会場における放射線量は、世界中の他の都市と比較しても正常範囲内であることがわかりました。
しかしオリンピック会場以外の場所は、会場と比べ7倍の放射能汚染があることが確認されました。

                    

                  

今回のオリンピックは福島の復興を世界にアピールする事に利用される事になっていますが、福島県のオリンピック会場は東京の会場よりも汚染されていました。
これら福島県内のオリンピック会場は、『ホットパーティクル(放射能汚染濃度の高い微細な粒子)』に関して平均で東京の会場より2~3倍汚染されていることがわかりました。

                  

さらに福島県の国立サッカー総合施設であるJヴィレッジでは、少量ではありますが統計的に有意なレベルのプルトニウムを検出しました。

                     

日本政府はこれら福島県内各所について徹底的に除染したと主張していますが、福島のオリンピック会場が汚染された状態にあることは驚くべきことではありません。
前述のように県内全域が除染される訳ではないため、除染が行われていない場所から風によって放射性物質が運ばれてくる状態が今後何世紀にもわたって続く事になるでしょう。

                 

▽ 靴ひもの科学

                    

福島第一原子力発電所の崩壊が続いていた当時、米国の原子力発電推進擁派はワシントン州議会で次のように証言していました。
日本の原子力発電所の全てが問題なわけではなく、原子力発電所で働くことは「トイザらスで働くより安全である」と…
当然のことながら、この当時と同じ原発推進派の人間たちは、福島の3基の原子炉のメルトダウンの直接の影響により癌によって死亡する人間が増えることはないと主張しています。

                  

                

しかし私たちが調査によって問題の存在を明らかにしたホットパーティクルによる汚染を除いても、国連は福島第一原子力発電所のメルトダウンは数千人から数万人の死者を生む可能性があると結論を出しました。

                         

さらに私たちを含め様々な分野の研究者が、実際には福島第一原発のメルトダウンによる癌の増加は、ホットパーティクル(高放射性微粒子)が環境中に散らばったことにより、10万人以上の死者の増加をもたらす可能性があると信じています。

                    

福島第一原子力発電所の3基の原子炉が立て続けにメルトダウンしてから10年が経ち、日本の放射能汚染の状況は当時と比べ改善したことは間違いありません。
しかし私たちの調査研究結果は、日本はまだ『復興』していない、そしてもちろん福島第一原発の崩壊以前の日本に戻ることはできないことを示唆しています。

                     

原子力発電の利害関係者による広報キャンペーンも、今後も発生し続ける福島第一原発周辺の人々が生活する空間の再汚染を隠蔽すことはできません。

                       

福島第一原発が崩壊した当時、福島第一原発近くのコミュニティの区長を務めていた長谷川氏はこう語っています。
「原発は私たちからすべてを奪いました……そして今、私たちはオリンピックにとって邪魔な存在です。結局、福島第一原発の放射能によって汚染された地域は、オリンピック開催にとって邪魔な存在でしかないのです。」
「彼らは福島第一原発の崩壊という事実を記憶から消し去る事によって、その事実が無かった事にしてしまいたいのです。」

                     

「こぼしたものをきれいにする最善の方法は、こぼれるようなものは置かないようにすることだ」というあまり使われなくなった古い格言があります。
規模ははるかに巨大ですが、これは福島第一原発崩壊の被災地全域の除染が経済的に実現不可能な日本にそのまま当てはまります。

                 

日本が放射能に汚染されたままである、その仮説が正しいかどうかを検証するため、あるテストを行う事を提案します。
それはオリンピック選手と福島第一原発周辺地区を訪れた人の靴ひもの放射線量を測定する事です。
靴ひもという織物は道路にあるほこりを閉じ込める性質があり、ある意味便利です。
このテストは東京と比較し、福島第一原発周辺の人口集中地域の汚染の程度を判断するのに役立つ可能性があります。

                

《完》
https://www.fairewinds.org/demystify/fairewinds-nuclear-spring-series-japan-hasnt-recovered-10-years-after-fukushima-meltdowns?ss_source=sscampaigns&ss_campaign_id=60635f5d4fab780f88c38da6&ss_email_id=6063713ec1bf7f39008bac2e&ss_campaign_name=Fairewinds+Introduces+New+%23NuclearSpringSeries&ss_campaign_sent_date=2021-03-30T18%3A43%3A37Z

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前回、相対性理論の公式 E = mc2 に関する個人的な話をご紹介しましたが、原子力発電もこの公式に基づくものであることは皆さんもご存知の通りです。

しかしアインシュタインが E = mc2 という仕組みを解き明かしたものの、人類はそれを完全に制御できるだけの公式を持っていません。

なのに世界中で原子力発電所を建設している人間の行為が、少し角度を変えて見てみれば、取り返しのつかないほど危険な行為である事に気づかされます。

福島第一原子力発電所の崩壊はそれを現実として私たちに突きつけました。

原子力発電は止めなければならない、それが良心の科学の答えであるはずです。

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