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刑務所に入りたいと願う年金受給者が増えている日本《後編》

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所要時間 約 8分

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200円のサンドイッチの窃盗に対し、2年間の懲役刑を言い渡すためには840万円の税金を使わなければならなくなる
裁判所での訴訟手続や収監のために公費を使うより、高齢者の世話をする方がはるかに優れており、しかもずっと安価

BBC 2019年1月31日

高田敏雄さんと面会したリハビリテーションセンター「広島とともに」の責任者も、日本の家族のあり方の変化が高齢者犯罪の増加につながったと考えていますが、それは経済的な側面よりも心理的要因によるものだと強調しています。
「結果的に人間関係が変ったことが原因です。人々はより孤立した存在になってしまいました。高齢になって犯罪に手を染める人々はこの社会の中に居場所を見つけることができずにいるのです。彼らは孤独に耐えられないのです。」
85歳の山田寛一さんがこう語りました。

          

広島に原爆が投下されたとき子供だった山田さんは、自宅の瓦礫の中から救い出された経験を持っています。
「犯罪を犯した高齢者の中には、人生の半ばでこうした転機を迎えた人々がいます。様々なきっかけがあったはずです。妻や子供を失ったりして、それを乗り越えることができなかったのです。世話をしてくれたり、支援してくれる人がいれば、ふつう人間は犯罪に手を染めることはありません。」

          

山田寛一氏は貧困の結果として犯罪を余儀なくされたという高田敏雄さんの話は単なる「言い訳」に過ぎないと仄めかしました。
問題の核心にあるのは孤独であり、彼が再び犯罪に手を染めた原因の一つは、刑務所内には人とつながるコミュニティがあるからだとも考えられると語りました。

          

敏雄さんが一人きりなのは事実です。
両親はすでに亡くなり、敏雄さんが電話しても電話に出ない2人の兄とも音信不通です。
敏雄さんは2度離婚しましたが、2人の元妻と3人の子供とも音信不通です。

もし敏雄さんが妻と家族を持っていたとしたら、物事が違った結果になったと思っているかどうかを尋ねました。
彼は多分そうだろうと答えました。
「もし私を支えてくれる家族がいたら、多分犯罪に手を染めることはなかったでしょう。」

         

マイケル・ニューマン氏は、日本政府が刑務所の収容能力を拡大し、追加の女性刑務所警備員を募集したことに注目しています。
高齢女性犯罪者の数は低水準でしたが、ここにきて目に見えて急増しています。
ニューマン氏は刑務所にいる人々の医療費が急増していることも指摘しました。

          

私は東京郊外の府中刑務所で、別の変化をこの目で確認することになりました。
府中刑務所では現在、受刑者のほぼ3分の1が60歳を超えている人々です。

           

日本の刑務所内では、受刑者たちが大きな声で号令をかけながら行進する様子を見かける機会がたくさんあります。
しかし府中刑務所ではこのような軍事訓練を実施することは難しくなっているようです。
私は行進する小隊の後ろで白髪の囚人が数人、追いつくのに苦労している姿を目撃しました。
そのうちの一人は松葉杖をついていました。

           

刑務所の教育長である矢沢正嗣氏が次のように語りました。
「私たちはこの施設の改良に取り組まなければなりませんでした。」
「私たちは手すりを取り付け、特製のトイレを設置しました。高齢の犯罪者のための特別クラスもあります。」

           

彼はそのうちの一つを私に実際に見学させてくれました。
それは自分が生まれてきた意義、生きることのすべての意味について歌詞にした人気のあるポピュラーソングのカラオケ演奏で始まりました。
受刑者には一緒に歌うことが奨励されています。
歌っているうちに感極まってしまう人もいます。
「私たちは充実した暮らしは刑務所の外にあり、そこには幸福があることを彼らにわかってもらうため歌っているのです。」
矢澤氏がこう語りました。
「それでも刑務所での生活の方がましだと考え、再び刑務所に戻ってくる人間が多いのです。」

             

マイケル・ニューマン氏は裁判所での訴訟手続や収監のために費用を使うより、高齢者の世話をする方がはるかに優れており、しかもずっと安価だと主張しています。
「私たちはある提案をしています。それは年金の支給額を半分にする代わり、無料の食事を提供し、交通費も無料、医療も無償化され、他の住民とカラオケやゲートボールを楽しむなど、高齢者に自由な空間を提供する産業施設複合型退職者ビレッジを建設するモデルを作りました。
それは現在の政府予算よりはるかに少ない費用で済むでしょう。」

             

ニューマン氏はさらに日本の裁判所が、些細な窃盗のために収監手続きが必要な判決を下す傾向があることについて、
「犯した犯罪にふさわしい量刑を課すという点では少し奇妙です。」
と語っています。
「200円のサンドイッチの窃盗に対し、2年間の懲役刑を言い渡すためには840万円の税金を使わなければならなくなる可能性があります。」
ニューマン氏2016年の報告書にこう書いています。
それは仮説の話かもしれませんが、私はその仮説がほぼあてはまる1人の高齢の受刑者に出会いました。
彼は2度目に犯した窃盗事件で2年間の懲役刑を言い渡されました。
罪状は400円ほどのピーマンを盗んだというものでした。

          

私は日本国内の約3,000の小売店の警備を担当する会社の望月守夫氏から、それどころか裁判所が万引き犯に対して厳しい態度で臨むようになったという話を聞きました。
また、刑務官の将正幸さんがこう語りました。
「たった一枚のパンを盗んだだけでも、刑務所に収監されるべきであると裁判で判決が下されることがあります。そのため私たちは収監された人々に正しい道を教える必要があります。どうすれば犯罪を犯さずに社会で暮らしていけるのかを。」

          

私は刑務官がこうした教訓を敏雄さんに伝えたのかどうか知りません。
しかし敏雄さんにすでに出所後の次の犯罪を計画しているかどうかを尋ねると、彼は言下に否定しました。
「いいえ、本当にこれでもう終わりです。」
敏雄さんがこう答えました。
「もう刑務所に戻るつもりはありません。私はもうすぐ70歳です、次はもう刑務所生活には耐えられない体になっているでしょう。もう二度と犯罪に手を染めるつもりはありません。」

         

《完》
https://www.bbc.com/news/stories-47033704

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