ホーム » エッセイ » 【 ニッポンのゲンパツ再稼働 – せめぎ合う実行行政と規制委員会 】
安倍首相は原子力発電所の再稼働を、政権の政策とは別のものに見せようとしている
相変わらずの隠ぺい・欺瞞工作を止めない限り、原子力行政が信頼を取り戻すことは出来ない
エコノミスト 3月20日
日本の原子力規制委員会は3月中旬、すべてが停止中の日本の原子炉の中で、鹿児島県にある九州電力の川内原発の2基の原子炉が一番最初に再稼働される事になるだろうと語りました。
原子力規制委員会の田中俊一委員長は、川内原発が新しい安全基準の下、重要な課題をクリアしたと語りました。
なぜ川内原発が最初になるのかについては、原子力規制委員会のメンバーが日経新聞に非公式の形で語った内容がヒントになります。
原子力規制委員会のメンバーの一人は、原子炉の直下で発生する地震の強度について、九州電力の想定が最も現実的で理にかなったものであったと打ち明けたのです。
日本の電力会社や原子力発電企業の中で、九州電力だけが原子力発電のこれまでの地震の想定最大規模を見直し、これまでの540ガルから620ガルに引き上げたのです。
この点が原子力規制委員会に評価されたものと見られます。
日経新聞の取材に対しこのメンバーは、九州電力以外の企業は地震の想定最大規模を見直そうとはせず、従来と同じ低い想定のままで最稼働の申請を行ったと不満を露にしました。
3月13日に原子力規制委員会が、九州電力・川内原発が再稼働する原子力発電所の最初のものになるだろうと発表した一連の発表と手続きの中に、今後日本がどのようにして原子力発電所の再稼働を行うつもりなのか、その内容が記されています。
日本の原子力規制委員会は説明不足であると同時に、一般国民に対し新たな安全基準に適合するという事がどういう事なのか、懇切な説明を試みたことはありません。
日本政府はことあるごとに日本の新基準が『世界一厳しい』と胸を張りますが、原子力規制委員会そのものはそうした発言は行っていません。
原子力発電に対する不信を募らせている日本国民に対し、改めて原子力発電を売り込むのは政府の役割であって、原子力規制委員会の仕事ではない、田中委員長は繰り返しそう述べてきました。
原子力規制委員会は科学的・技術的側面についての、検証を行うことがその役割なのです。
一方で安倍晋三首相は、原子力発電所を再稼働されることについては、原子力規制委員会の『認可を得て』行われるのだという点を強調し、政府の責任よりも原子力規制委員会の存在を際立たせようとしています。
原子力行政の広報という観点から見れば、このタイミングで原子力規制委員会が発表を行ったことは悪いことではありません。
それは日本政府の世論の動向を左右しようという動きと、原子力規制委員会の役割は別のものであるという事を改めて表明することになりました。
原子力発電を支持する立場の企業や組織は、九州電力・川内原発が再稼働される原子力発電所の最初のものになる見込みであるという発表が、東日本大震災・福島第一原発事故発生の3周年の日から2日後に行われたことについて、その日が選ばれるべきだったかのかどうか、疑問に思っているに違いありません。
福島第一原発の事故により故郷を追われ、仮設住宅での生活を強いられるなど悲惨な境遇にある人々は、九州電力・川内原発の再稼働に関する報道を複雑な思いで受け止めました。
与党自民党の長老議員のひとりであり、衆議院議長を務める伊吹文明氏は、東日本大震災・福島第一原発事故発生の3周年の追悼式典で、日本は将来に向けて原子力発電の段階的な廃止に踏み切るべきであるという演説を行い、周囲を驚かせました。
過去において日本の国民は原子力発電の『安全神話』を、疑問を持つことなく受け入れるように巧みな世論操作が行われ、それには原子力規制委員会の前身である原子力安全・保安院も関わっていました。
原子力規制委員会は、かつて九州電力が会社ぐるみ不正な宣伝戦術に関わったことを忘れてはいないことは疑いようのないことです。
2011年夏九州電力の社員がテレビ番組に対し、一般市民と偽って原子力発電を支持する旨の電子メールを送っていたことが明らかになりました。
その狙いは川内原発の北西にある九州電力・玄海原発の再稼働を早めさせることでした。
その電力会社は、どの時点かで、誰かが音頭を取り経営方針を新たにしたようです。
一般市民に伝えるべきことは、はっきりと、よく解るように説明しなければならないという事を、です。
http://www.economist.com/blogs/banyan/2014/03/japans-nuclear-watchdog?zid=306&ah=1b164dbd43b0cb27ba0d4c3b12a5e227