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刑務所に入りたいと願う年金受給者が増えている日本《前編》

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所要時間 約 7分

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貧困ゆえに?孤独ゆえに?男女ともに増え続ける65歳以上の犯罪率
高齢者が犯す窃盗の内容は主に万引きであり、高齢者犯罪の中で圧倒的な比率を占めている

BBC 2019年1月31日

          

日本は今高齢者による犯罪の増加傾向の中にあります。
日本では全年代の犯罪事件の中で65歳以上の人々の割合がこの20年間で着実に増加を続けているのです。
BBCのエド・バトラーがその理由を探りました。

           

広島にある更生訓練施設(刑務所を出所した後スムースに社会復帰できるようにするための施設)で69歳の高田敏雄さんは、自分は貧乏が理由で法律を破ったと私に話してくれました。
たとえそれが鉄格子の中であったとしても、どこか無料で暮らせる場所で暮らすことを望みんでいたのです。
「私は年金受給年齢に達した時点で、持ち金を使い果たしてしまったのです。
そのときある考えが浮かんだのです。
「刑務所の中だったらただで暮らすことができるかもしれない…」

          

「そこで私は一台の自転車を盗んでそのまま警察署まで乗って行き、こう言ったのです。
「見てくれ、これを盗んできた。」

            

計画はうまくいきました。
この窃盗は敏雄さんが62歳の時に初めて行った犯罪でしたが、日本の裁判所はこのささいな盗難事件を重く見て、1年間の禁錮を命じる判決を下しました。

            

小柄でほっそりしていて、しかもにこやかな様子の敏雄さんはとても常習的な犯罪者のようには見えません。
ましてやナイフを使って女性たちを脅迫したことがある人間には見えません。
しかしそれこそは始めての禁固刑の刑期を終えて釈放された後、まさに彼がしたことなのです。
「私は公園に行き、ただ彼女たちを脅迫しました。何も危害を加えるつもりはありませんでした。中の誰か1人が警察に電話をかけることを願いながら、ナイフを見せびらかしました。
そして実際、一人が警察に連絡したのです。

          

これまでの8年間のうち、敏雄さんはその半分を刑務所の中で過ごしました。

私は彼が刑務所にいるのが好きかどうか彼に尋ねると、敏雄さんもう一つの経済的利点について話してくれました。
服役中も、敏雄さんの年金は支払われ続けるのです。

           

「別に刑務所暮らしが好きなわけではありませんが、刑務所内なら生活費がかかりません。」
「それに出所するまでに、少しばかりお金を貯めることもできました。ですからそれほど苦痛というわけではないのです。」

          

敏雄さんの存在は日本の犯罪における著しい傾向を表現しています。
日本は極めて遵法的な社会ですが、65歳以上の年齢層において犯罪割合が急激に増加する傾向にあります。
1997年時点では全年齢層の中で65歳以上の犯罪者の構成比率は約5パーセントでしたが、20年後の現在その割合は20パーセント以上にまで膨らんでしまいました。
現在日本の65歳以上の人口は全体の25パーセントを超えていますが、人口の伸びを超える勢いで高齢者の犯罪率が高くなっているのです。

          

こうした犯罪者のもうひとつの傾向は敏雄さんの例を見ても分かる通り、再犯率が高いことです。

           

もうひとつの傾向は恵子さん(仮名)の場合に端的に表現されています。
小柄でこざっぱりとした身なりのこの女性は70歳、自身の身の破滅の原因はやはり貧困であったと話してくれました。

             

「私は夫と一緒には暮らしていけませんでした。住む場所もなく、居場所すらありませんでした。だから盗むことが唯一の選択肢となったのです。」
恵子さんがこう語りました。
「ちゃんと歩けない80代の女性でさえ犯罪を犯しているのです。生きていくための食べ物や生活費を手に入れることができないからなのです。」
私が敏雄さんや恵子さんから話を聞いたのは、刑務所を出所した人々が社会復帰を果たすための更生施設でした。
その後私は恵子さんが再び万引きをして逮捕され、現在また刑務所で暮らしていることを知りました。

         

高齢者が犯す窃盗の内容は主に万引きであり、高齢者犯罪の中で圧倒的な比率を占めています。
彼らが万引きするのは主に食料品で、金額はほとんどの3,000円未満です。

            

東京を拠点とするリサーチハウスで人口統計学者を務めるオーストラリア生まれのマイケル・ニューマン氏は、日本の「わずかでしかない金額」の国が支給する老齢基礎年金だけではまともな暮らしを維持することはほとんど不可能だと指摘しています。

          

2016年に発表した論文でニューマン氏は老齢基礎年金のみで他に収入がなければ、家賃、食料、医療費だけで借金を背負わざるをえなくなると計算しています - その経費には暖房費や被服費などは含まれません。

           

昔は子供たちが両親の世話をするのが伝統的でした。しかし地方では就職先が見つからないなどの理由により若い人々が去って行き、両親は自活せざるをえない状況に置かれるようになったのです。

          

「年金受給者は自分の子供たちに負担をかけたくないと思っています。そして国の年金で生き残れないのであれば、子供たちの負担にならない残されたほとんど唯一の方法は、自ら進んで刑務所に入ることだと考えているのかもしれません。」
繰り返し罪を犯すのは「刑務所に戻る」ためであり、3度3度の食事が支給されても代金を請求されることはありません。
「その場所から出されてしまったら、再び戻れるよう自分でなんとかするだけのことです。」

           

ニューマン氏は、自殺も高齢者の間で一般的な選択肢の一つになっていることを指摘しています。
自殺は年金受給額の少ない高齢者が「引き際が肝心」と判断せざるをえない状況を解決するためのもう一つの方法なのです。

            

《後編》に続く

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