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【 アベノミクスの5年間を検証する 】

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上昇した経済成長率、上がらなかった給与所得、上昇しなかったインフレ率

アベノミクスは最も重要な目標を達成していません

 

エコノミスト 2017年11月16日

東京の飯田橋にある皇居の北側にある居酒屋チェーン『鳥貴族』には連日仕事帰りの若いサラリーマンや女性たちが集り、比較的低額な予算で焼き鳥とお酒を楽しんでいます。

客たちは註文の際、賃金の上昇が続き人材難に陥っているウェイターの代わりに、店内各所に設置された注文用のターミナル機器のタッチスクリーンを操作しています。

先月同社は、地元産の鶏肉を材料にした焼き鳥2串の価格を従来の298円から6%以上値上げせざるを得なくなりました。

これは同社にとって28年間で初めての値上げになりました。
焼き鳥の店頭価格は一般的にはマクロ経済の指標とはみなされません。

 

しかし、鳥貴族の決定は、安倍晋三首相の名前を冠する日本経済を復活させる政策「アベノミクス」の根底にある論理を実証するものです。

彼の経済戦略は、大規模な金融緩和政策を積極的に進めることにより、子女の支出と投資を活性化させることを目的としていました。

それによって雇用が創出され、賃金を押し上げることになるだろう。

賃金の上昇は、次に物価を押し上げることになるだろう。

その成果は20年間ほとんど途絶えることなく続いてきたデフレーションを終息させ、2%の新しいインフレ目標の達成することによって証明されるだろう…

安倍首相の手法は権力の座に就く以前に形を成していました。

5年前の2012年11月16日、安部氏の前任者である民主党政権の野田氏は日本の議会を解散し、安倍氏の選挙戦での勝利を確実なものにしました。

すぐに市場は反応し為替相場では円が下がり始め、株式市場は安部氏の勝利がもたらす拡大政策を見越して上昇を始めました。

そしてさらに2013年4月に日本銀行総裁に黒田晴彦氏が就任し、金融緩和政策を最大規模に拡大し、大規模な債券購入を始めた時点でこうした期待は一線を越えることになりました。

5年後、日本の通貨は2012年11月と比べ約30%安くなり、日経平均の株価指数は150%以上上昇したのです。

 

こうした政策は経済に人為的に仕組まれた刺激を与えてきました。

日本のGDPは今や7四半期連続で上昇しており、16年間途絶えることなく経済成長を実現するという最長の経済成長を記録することになりました。

インフレによる調整を行なわない名目GDPの拡大は、さらに際立っています。

2017年第3四半期までのこの5年間の経済成長率は11%を超えており、これまでの20年間で最も速い成長率になっています(下図を参照)。

中でも輸出はその増加の大きな原動力になりました。

円安のおかげで、日本の商品に費やされる1ドルは円に換算してこれまで以上の価値のものが手に入るようになりました。

これまでの5年間、民間設備投資も積極的に進み18%以上、一定価格では約15%増加しています。

例えば、鳥貴族は、2017年8月から2018年9月までに80店舗を新規出店する予定です。
アベノミクスは政策の支持者が期待していたよりも多くの雇用を創出しています。

日本の就労年齢人口が400万以上も縮小した事を勘案しても、雇用は過去5年間で270万以上増加しました。その結果、失業率は3%を下回り、日本は1人の求職者に対して1.5以上の求人倍率を実現しました。

 

こうした進展にもかかわらずアベノミクスは最も重要な目標を達成していません。

すなわち2%のインフレ率の達成です。

生鮮食品を除く消費者物価指数は今年に入り、9月までにわずか0.7%上昇しただけでした。

ここからエネルギー価格の上昇分を差し引くと、インフレ率はさらに低い数値になります。

インフレ率の上昇が進まないのはなぜなのでしょうか?

そもそも重要なことなのでしょうか?

理由のひとつが、労働者の賃金が期待どおり速やかに上昇していないということによるものです。

焼き鳥店のウェイターなど、定着率が低く雇用保障が低い職種の賃金の上昇はかなり著しいものです。

 

一方で日本の賃金水準の大勢を決する「中間層」の労働者にはこの状況は当てはまりません。
日本の終身雇用の労働者は会社側が容易に解雇することはできず、労働者の側も途中で退職すれば社会的地位を著しく損なうリスクが発生します。

その結果、労働者不足になっても過剰になっても、労働者の会社に対する交渉力が強化されたり、逆に低下したりという事はありません。

こうして一般的労働者の賃金は、普通の暮らしを続けるために必要な生活費に対し、多くも無く少なくもなくという状態に固定される場合がほとんどです。

安倍首相の下でのチームは、日本銀行が約束したより高いインフレ率が達成されることを期待し、労働者の賃金水準がもっと高いものになって「前向きな」消費行動に移ることを期待していました。

しかし思惑と現実は逆であり、実際の労働者の賃金は低迷するインフレ率の影響を大きく受けています。

政府は現実をはるかに上回る賃金の上昇を期待していたことが、後に明らかになりました。

 

賃金がなかなか上昇しないもうひとつの原因は、もう少し楽観的なものです。

日本はもっと別の労働力の供給市場が存在することに気がつきました。

多数の女性と高齢者が労働市場に誘引されています。

また、昨年は外国人労働者が初めて100万人を超えました。

例えば鳥貴族では、多くのベトナム人労働者が働いています。

 

さらに日本の企業各社は労働コストが上昇した場合、それをそのまま製品価格に転嫁するのではなく、生産性を上げてコスト上昇分を吸収する方法を見つけました。

各企業は鳥貴族で使われているタッチスクリーン端末などの省力技術に投資してきました。

短観(企業短期経済観測調査)によれば、特に深刻な労働力不足に直面している中小企業はこうしたソフトウェア開発への投資を2018年3月末までの1年間に22%以上増加させる計画です。

一方でインフレ率が上昇しない、すなわち物価が高騰しないという事は日本の一般消費者にとっては良いことであり、なぜ政府がわざわざすべてのものの値段を引きあげようとしているのか疑問を持つこともあるでしょう。

鳥貴族の長期間にわたり価格を据え置いてきた末にやむを得ずの値上げですら、チェーンの厳しい顧客の一部からは批判されています。

しかし11月のとある月曜日の夕方、飯田橋の店内にいたお客さんたちの感情はもっと寛容なものでした。一組の学生は、以前の一皿280円という価格を維持するのは不可能だと感じていました。

逆に無理な低価格を続けて、店が無くなってしまうことの方を心配していました。

 

こうした学生たちの心配は、デフレと戦う上でもうひとつの大きな障害となっている日本全体が抱える悲観的な不安感を象徴しているかもしれません。

すなわち、日本の人びとは物価が上がって生活が圧迫されることも心配していますが、デフレが続いて経済停滞からの脱出が出来ない事も心配なのです。

 

https://www.economist.com/news/finance-and-economics/21731419-growth-has-picked-up-not-inflation-what-five-years-abenomics-has-and-has?zid=306&ah=1b164dbd43b0cb27ba0d4c3b12a5e227

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