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日本の原子力産業界の体質的欠陥、崩壊の構図、事故の防止能力も喪失?
原子力発電所を安全に管理運用するために必要とされる人材と人数を確保することはもはや不可能
ジュリアン・ライオール / ドイチェ・ヴェレ 2017年6月12日
日本原子力研究開発機構(JAEA)は6月10日声明を発表し、6月7日事故によって深刻な内部被ばくをしてしまったと報告した原子力研究施設の5人の職員について、この中の誰の肺の中からもプルトニウムは検出されなかったと主張しました。
この内容は大洗原子力技術研究所で26年間保管されていた放射性物質が入ったビニール袋が破裂し、作業中の職員一人が内部被ばくにより、22,000ベクレルのプルトニウムの被ばくをしてしまったという当初の発表とは明らかに矛盾しています。
原子力研究開発機構(JAEA)の当初の見解は、容器を手に持っていた男性職員が放射性物質を吸い込んでしまい、血液、骨、そして各臓器が最大で360,000ベクレルの内部被ばくをしてしまった可能性があるというものでした。また、この職員の周囲にいた4人の別の職員の被ばく量は低いというものでした。
今回この男性がプルトニウムを吸入していなかったという発表は事故の影響を受けた人々にとっては吉報に違いありませんが、専門家はそれ以上に、事実誤認、肝心な際に判断を誤りがちな体質、そして不注意でいい加減な業務の遂行といった事例に象徴される日本の原子力産業界の体質的欠陥を改めて浮き彫りにしたものだと指摘しています。
▽福島第一原子力発電所の事故から6年の歳月
さらに専門家は、こうした類いの問題はとっくの昔に解決しなければならなかったはずだと語りました。
原子力発電所にとって重要な設備である原子炉冷却システムが巨大地震と巨大津波によって破壊され、福島第一原発の3基の原子炉でメルトダウンするという、世界史上2番目に最悪の原子力発電所事故が発生してからすでに6年が経過しました。
朝日新聞は原子力研究開発機構(JAEA)について「過去に何度もそのずさんな管理体制を批判されてきた組織」と伝え、被ばくした作業員は内部被ばくではなく体の表面に多量のプルトニウムが付着した外部被ばくであり、それすら取り違えていると批判しました。
「今回の事故とその後の一連の報告は、日本の原子力関連組織のずさんな管理状況を改めて証明した、その一例に過ぎません。」
京都に本部を置くNGO組織のグリーン・アクション・ジャパンで原子力発電に反対する運動を行っているアイリーン・ミオコ・スミスさんがこう語りました。
「こうした原子力関連の組織は今や過度に官僚的体質になってしまっている、私はそう考えています。こうした施設で働いている職員にも経営管理を行っている側にも重要な仕事を担っているという使命感がほとんど無くなり、ただ単に費用を削減できるというだけの理由で考えられないほど多くの業務が下請け任せになっていると考えられます。」
アイリーンさんがドイチェ・ヴェレの取材にこう答えました。
もうひとつの例としてアイリーンさんは、報道機関にはあまり大きくは取り上げられなかった京都のすぐそばにある高浜原子力発電所で今年1月に起きた事故について語りました。
強風により112メートルのクレーン・アームが倒れ、使用済み核燃料を保管していた施設の屋根を直撃し破壊した事故です。
▽ 激怒する人々
「この事故について付近の住民たちと地方自治体は、激怒していました。」
スミスさんがこう語りました。
「この事故が明らかにしたのは、使用済み核燃料の保管場所のすぐ近くで作業をさせていた原子力発電所の管理者たちが天気予報を気にしていなかったという事実です。そして強風が予報されているという事実すら把握していなかったのです。何という愚かさでしょう?!」
日本の原子力産業界の安全管理体制については長い間賛否両論ありましたが、福島第一原発の事故により一気に悪化しました。
安全管理についていくつもの欠陥があったことが明らかにされ、中には原子力発電所を守るためには防潮堤をもっと高く強固にする必要があるという改善勧告を無視していた事実も確認されました。
そして原子力発電のイメージが悪化したことは、人材確保にまで悪影響を及ぼすことになりました。
「これまでとは異なり、日本の原子力発電に関わる問題に取り組むために必要とされるだけの人材と人数を確保することはもう不可能だと私は考えています。」
スミスさんがこう語りました。
「原子力産業はかつて描いていたバラ色の未来はもちろん、具体的な展望すら失ってしまいました。今残っているのは、もはやなるようにしかならないと考えている人々です。」
「しかし日本では現実にすでに5基の原子炉が再稼働しており、その管理運営には細心の注意が向けられなければなりません。そして廃炉が必要な原子炉も多数あり、その作業にも最大限の注意が必要なはずです。」
「そうした作業は有能で経験豊かな人々の手に委ねられなければならず、いかなる事故も発生しない体制を構築してもらわなければなりません。」
避けられない事故?
しかし明治大学国際総合研究所の客員研究員で政治評論家でもある奥村準氏は、いかなる産業にあっても産業事故をゼロにすることは不可能であり、それは原子力産業においても同じであると語りました。
「いかなる組織であっても最終的に人間の判断を必要とする場合、下請け構造が何層にもなり、業務上の手続きも何段階にもなっていれば、問題が発生することは避けられません。」
「今回の事件発生の背景にあるのも同じ問題です。」
「この問題について、政府の関与が必要になるのは間違いのないところだと思います。そしてこうした事故が二度と発生しないよう、新たな規制基準が導入されることになるでしょう。」
日本の原子力発電産業が2011年の事故に加え、それ以降にも次々に明らかにされた想定外の事故やトラブルによって、そのイメージを悪化させ続けたという事実に奥村氏は同意しました。
「メディアは現在、原子力発電に関して何か不都合な事態が起きると、それらをすべて取り上げるようになっていることは明らかです。
しかしスミスさんにとっては、原子力発電産業界の事故をただ単純に他の産業事故と同様に扱うというのは、到底受け入れがたい考え方です。
造船、鉱山業、エンジニアリング、建設事業など、他の重工業における産業事故が発生した場合、その影響が及ぶのは通常近隣の少数の人々に限られます。
しかし福島第一原発の事故は、原子力発電所の事故だけはまったく違うという事をすべての日本人の前で明らかにしました。
「彼らは原子力発電が日本にとって『明るい未来』であり、この国にとって必要不可欠なものだと国民や施設周辺の人びとに力説しました。」
スミスさんがこう語りました。
「しかし今や国民や施設周辺の人びとも、自分たちはたぶらかされたのだという事を痛感しているのです。」
http://www.dw.com/en/japans-nuclear-mishap-underlines-industry-malaise/a-39209569