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福島第一原発事故から8年後の原発難民の帰還、その真の理由《前編》

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所要時間 約 11分

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3.11…福島では津波の破壊的な力がさらに深刻な危機を引き起こした

時の中で凍りついたまま、荒廃だけが進んだ福島第一原発に最も近い地域

写真:2019年2月福島県大熊町、雑草で覆われ廃墟と化した自動車販売店              

                

ジャスティン・マッカリー / オブザーバー(英国紙)特派員報告 / ガーディアン 2019年3月10日

           

2011年3月11日の襲来と福島第一原発の3基の原子炉のメルトダウンにより、数十万人の住民が緊急避難を強いられました。
この中で帰還したのは4分の1に満たない人々でした。
なぜそう決断したのか、その胸の内を明かした人々がいます。

              


            

2011年3月11日に、これまでに記録された最大の地震の1つが日本の東北地方太平洋沿岸を襲い、19,000人近くの人が命を奪う津波を引き起こしました。
そして福島では津波の破壊的な力がさらに深刻な脅威を引き起こすことになりました。

           

放射線の脅威は数十万に上る人々が避難を余儀なくされ、それまで暮らしていた町や村が瞬時に立ち入り禁止区域に変わってしまいました。
今日、福島第一原発に最も近い地域は時の中で凍りついたまま、荒廃だけが進みました。
家々は朽ち果て、生い茂る雑草歩道も車道もかつては手入れの行き届いた庭園であった場所も関係なく呑み込み、イノシシや他の野生動物が通りを我が物顔に歩き回っています。

             

しかし少し先に行くと、そこにはこの場所に戻ってやり直すことをことを決めたそう多くはない人々を対象とした新しい店舗、レストラン、公共施設があります。
鉄道線路が復旧し再び列車が走るようになり、道路も再開通されています。
東京2020オリンピックの聖火リレーはJビレッジから始まることになっています。
Jビレッジは福島第一原発事故の対応拠点として使用されていましたが、現在では本来の役割であるサッカー・トレーニング施設に戻りました。

            

しかしそれらはわずかな前進でしかありません。
これまで幾つかのエリアで人間が居住しても問題ないとされる安全宣言がなされましたが、元住民の多くは立ち去る方を選択しました。
理由の主なものは放射線に対する懸念、特に子供達への健康被害です。
また医療機関をはじめとする社会的インフラの欠如もそうした決断を後押ししました。

            

福島第一原子力発電所の労働者は莫大な量の放射能汚染水と戦っていますが、福島第一原発の廃炉の完了までは少なく見積もっても40年以上かかると見られています。
チェルノブイリ以降最悪となった福島第一原発事故発生から8年が経ちましたが、英国オブザーバーはかつては原発事故による立ち入り禁止区域とされていた地域での生活、仕事、通学、そして現役引退後の生活を、かつては故郷と呼んでいた場所で過ごす決心をした人々を取材しました。

           

▽ 土地所有者

           

佐々木清明氏は原発事故の避難民として仮設住宅で8年間暮らす内に地元の著名人となりました。
佐々木さんは毎日の早朝のラジオ体操を通じてコミュニティ意識を築いた住民の一人です。
約500年前に先祖が根を下ろした小高地区の路上で困っている人がいれば、93歳になった佐々木さんは献身的ドライバーとして手助けします。

             

山林地主である佐々木さんはつい先ごろ古い大きな木造家屋に戻ってきました。
3人の息子とその家族は近くに住んでいますが、佐々木さんは自立して一人でやって行く決断をしました。
それがこれからの日々、たった一人で生きていくということを意味するとしても…
その理由について佐々木さんは武士の血筋がそうさせたのだと語っています。

            

佐々木さんが暮らす地区はかつて230人の住民がいましたが、帰還したのは23人だけであり、その平均年齢は70歳を超えています。
佐々木さんは帰ってきた人々の名字をスラスラと並べて見せました。
「この村の将来がどうなるのか私には想像もつきません。ゆっくりと死に絶えていくのではないかと心配しています。」

写真:自宅の前に立つ佐々木清明さん。村がゆっくりと死に絶えていくのではないかと心配しています。
Justin McCurry / The Observer

             

「私の健康状態は完璧ですし、私は被災者のためデイケア施設を無料で利用できます。仮設住宅に暮らしていた時からの友人とも行き来があります。」
佐々木さんは自分の将来について楽観的に考えています。
少し気がかりなのはお気に入りの自分の車のことです。
「12月に運転免許が期限切れになりますが、その後どうすべきなのかわからないのです。」
彼の年齢では、それを返納すべき時だと考えるべきなのかもしれないのです。
家の外に1台のスクーターが置いてありました。
友人がプレゼントしてくれた中古のバイクですが、佐々木さんは気に入らないようです。
「遅いし、カッコも良くないしね。」

            

▽ 姉妹

           

今野るみ子さんとえり子さんの姉妹が通学する学校では、教師に注意を向けられることはまず問題にはなりません。
姉妹は福島第一原子力発電所から約6キロの場所にある浪江創生小中学校に通っている7人の生徒のうちの2人です。
全天候型サッカー場は、2017年に避難命令が部分的に解除されて以来、災害前21,000人いた人口のうち900人だけが戻ってきた浪江町に若い家族を連れ戻すため日本政府の資金で建設されました。

             

「娘たちをこの場所につれて帰ることについては、私の中で葛藤がありました。
姉妹の母親である真由美さんがこう語りました。
私はそれらを取り戻すことについて矛盾していました。」
「でも1年が過ぎた今、何とか落ち着きました。私自身も仕事を見つけ、自分は正しいことをしたと確信しています。」
新しい年度が始まる4月には、学校はさらに6人の生徒の転入を歓迎することになっています。

              

写真:るみ子さんとえり子さんはチームスポーツができるようになることを願っています。

           

「この1年間で子供たちは大きな進歩を遂げました」
こう語るのは校長の馬場龍一氏です。
「子供たちにとって一番の不満はチームスポーツができないことです。」

              

るみ子さんは11歳、えり子さんは8歳、ともにドッジボールやかくれんぼができなくて寂しいと語ります。
「クラスメートがもっと欲しいのですが、それはそれでまた違う種類のプレッシャーがかかるかもしれません。」
るみ子さんがこう語りました。

             

姉妹は学校で津波と福島第一原発事故について学びましたが、当時は幼すぎて自分たちの記憶と直接結びつくものはありませんでした。
「8年前の出来事だったので、本当に何も思いつくことはありません。」
るみ子さんがこう語りました。
「最近起きた自然災害に対処しなければならない人々のことの方がもっと心配です。」

            

《後編》に続く

https://www.theguardian.com/world/2019/mar/10/fukushima-eight-years-on-evacuees-come-home

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ジャスティン・マッカリー氏の3.11に関するルポルタージュは、3年前にガーディアンに掲載された今回よりさらに長文の【 アフター・フクシマ : 悲劇から5年が過ぎて – 人びとの素顔 】を4回に分けてご紹介したことがあります( http://kobajun.chips.jp/?p=27237、http://kobajun.chips.jp/?p=27246、http://kobajun.chips.jp/?p=27267、http://kobajun.chips.jp/?p=27278 )。
この時の記事は岩手県の被災地の取材でしたが、あらためて読み返して今回の記事と比較すると、『放射線の脅威』が存在するかしないか、ということがいかに大きな問題であるかということを痛感させられます。

            

             

3.11東日本大震災で私が暮らす宮城県では最大数の犠牲者が出ました。
その後まもなく米国CBSが伝えた
「地震より津波、津波より福島第一原発、それが住民の人生を最もひどく破壊した」
【 時の中で凍りついたまま、核廃棄物だらけにされた町 】( http://kobajun.chips.jp/?p=18234 )
という表現はまさにその通りです。

              

しかし福島第一原発事故はすでに現実のものになりました。
私たち日本人がすべきことは2度とこのような事故を繰り返さないこと。
そして犠牲を強いられた人々に、最もふさわしい救済を提供することです。


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