ホーム » エッセイ » 日本政府、原子力発電の段階的廃止を実質的に放棄《この記事に対する、世界の人々の声も翻訳・掲載!》[ニューヨーク・タイムズ]
【政財界の圧力により、原子力発電の段階的廃止の決定を撤回】
ヒロコ・タブチ / ニューヨークタイムズ 9月19日
突然の方向転換が行われ、日本政府は19日水曜日、先週発表したばかりの2040年まで(2030年代)の原子力発電の段階的廃止を、政策として決定することを見送りました。
財界と原子力発電所が立地する自治体からの、反対の圧力が強まった結果によるものです。
野田政権は2011年に発生した福島第一原発の事故後の経済政策の決定にあたり、2040年までの原子力発電の廃止については考慮の余地があり得るものの、公式には『地方自治体、国際社会との議論を充分に行った上で、一般国民の理解が得られるよう努力する』という漠然とした表現を行うにとどまりました。
野田内閣が公表した最終決定報告書によれば、新たなエネルギー政策は『柔軟な姿勢を保ちつつ、不断の見直しと再検討を行う』としています。
この日の午前中、日本において主要な経済団体が合同の記者会見を行い、この中で経団連の米倉会長は、野田首相が2040年までの原子力発電の段階的廃止を、実質的に放棄したことを高く評価しました。
2040年の期限は「第一に掲げるべき、現実的な選択ではありませんでした。」
岡村正日本商工会議所会頭は、記者会見でこう語りました。
原子力問題の民間の専門家は先週発表された政府の方針について、漠然としており、決定は先延ばしにされ、どのような解釈もできる内容だとして、当初から疑念を抱いていました。
水曜日、政府が後退して見せた事を受け、これら専門家は政府の態度を日和見であり、腰砕けもいいところだと指摘しました。
「私たちが見たものは、経済界の圧力に屈し、譲歩の上に譲歩を重ねる日本政府の情けない姿、それだけでした。」
民間の核問題・原子力発電の監視組織である、原子力資料情報室( http://cnic.jp/ )の共同代表である伴英幸氏がこう語りました。
古川元久内閣府特命担当大臣(経済財政政策・科学技術政策担当)は先週、独自の『エネルギーと環境のための革新的戦略』と銘打った文書を公開しましたが、この中で28年のうちに(2040年までに)原子力発電を廃止し、天然ガスなども利用しながら、最終的に再生可能エネルギーへの依存に切り替えることをうたっています。
しかし水曜日になると同大臣は、2040年の期限を実質放棄するという野田政権の方針に従い、先週発表された計画について、政府はもともとそれをひとつの参考材料とするために用意したのだ、と語りました。
「政策決定のためのひとつの参考資料です。内容そのものに実質的な変更はありません。」
しかしこうした内閣の発言や行動は、本当に日本の原子力発電を廃止する意思があるのかどうか、その疑いをさらに深めさせることになりました。
この方針を最初に打ち出したのは、2011年当時首相であった菅直人氏でした。
昨年9月菅前首相の後継者となった野田首相は、『日本の原子力発電への依存を減らす方向で…』といった漠然とした発言を繰り返しながら、停止していた原子力発電所の再稼働を行いました。
日本は3月11日に襲った巨大地震と巨大津波がきっかけとなり、福島第一原発の3基の原子炉がメルトダウンを引き起こし、大量の放射性物質を環境中に放出する前までは国内に54基の原子炉を持ち、発電量の30%を原子力発電に依存し、その割合を50%にまで高める計画を持っていました。
現在は2基を除き、これらの原子炉はすべて停止しています。
福島第一原発の事故後連続して開催された公聴会では、原子力発電の廃止を求める意見が圧倒的に多数を占め、野田首相は原子力発電に代わる発電手段を検討することを迫られました。
これらの公聴会において誰の目にも明らかになった事実は、原子力発電の安全性を確保する政府の能力に対する深刻な不信でした。
しかし経済界は原子力発電への依存を減らすためのあらゆる取り組みを、非現実的であり、すでにアジア各地の低価格攻勢に追いつめられている、日本の製造業を衰退させるものだと強力に批判しました。
そして日本各地の原子力発電所が立地する自治体は、高額の補助金、税制上の優遇措置、そして原子力発電所関連の雇用が失われるとして、原子力発電の廃止に反対の立場をとりました。
そして原子力発電所が停止することにより、使用済み核燃料を貯めこんでいる原子力発電所の施設が、そのまま核廃棄物の最終処分場になってしまう事を恐れています。
そして水曜日、失われた国民の信頼を回復すべく原子力規制委員会が発足したと同時に、日本政府の原子力発電の段階的廃止の方針は覆ってしまったのです。
前身である原子力安全・保安院が、規制されるはずの電力会社と深く癒着し、共謀を繰り返しながら、結局は福島第一原発の事故を防ぐための、どのような対策も取ることはできなかったことを受け、原子力規制委員会が新たに発足することになりました。
しかし5人のメンバーによって構成される原子力規制委員会の委員長に、田中俊一氏が就任したことで、新たな核監視機関もすでに批判の対象になっています。
田中氏は、より厳しい安全基準を厳格に適用してもらいたいとする立場の人々から見れば、旧体制の下に会った委員会で、日本の原子力産業界の立場を強めるために働いてきた人物です。
せっかく新たに原子力規制委員会が設けられても、田中氏が委員長になったのでは、旧原子力安全・保安院と何も変わらない、いい加減な規制しか行わなのではないか、というのが大方の人々の懸念になっています。
枝野幸男経済産業大臣は、原子力規制委員会は「原子力発電を運用する側と、管理監督する側を厳しく分離」することを実現する、新たな枠組みとなると語りました。
そして日本政府は「世界の中で最も高水準の、規制と災難準備計画作成」のための助力を惜しまない、そうつけ加えました。
取材協力 : 井上まり子
★ この記事に対する世界の人々の反応 ★
「何と悲しむべきことだろう…私が考えていた以上に、日本という国は国民一人一人の利益より、大企業の利益を優先する国だったのだ。これじゃアメリカ以上だ。」
米国マサチューセッツ州ニュートンのisoisaさん
「日本政府は恥を知れ!」
米国フロリダ州のsmile mcguiさん
「ニューヨークタイムズが伝える、日本とはそういう国なのだろうな、という報道。
再生可能エネルギー分野で成長が続く中、ドイツの大企業に何か困った事態は起きているだろうか?
答えはノーだよ。
たとえばアルミの精錬業は莫大な電力を必要とするけど、彼らは公正な競争の下、提示された電気料金を比較し、最も有利な取引を行い、利益もきちんと得ている。
原子力発電が無くなった、ドイツの地方自治体は困窮しているだろうかか?
こちらもノー。
原子力発電所が雇用する人数は300人程度、これに対し再生可能エネルギーはもっと多くの雇用を実現させている。
ドイツ政府が2022年の原子力発電の廃止を決定して一番変わったことは、巨大電力会社の原子力発電のためのロビー活動がパタッと止んだこと。今や彼らも再生可能エネルギーの将来性が明るいことに気がついて、嬉々として開発に取り組んでいるよ。」
ドイツ・ルパートさん
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みなさん、お気づきでしょうか?
19日に日本政府が下した「具体的決断」は、現在建設中の原子炉の工事続行と完成後の稼働だけなのです。
そして同日に発足した原子力規制委員会の役割は、現在停止中の原子炉の再稼働に許可を与える事です。
従って以下の式が、将来現実になる可能性がでてきました。
停止中の原子炉50基(原子力規制委員会の承認があれば再稼働)プラス 建設中の原子炉(日本政府が工事の継続を承認)= ?基
これでは原子力発電の段階的廃止どころか、3.11以前の54基を上回る原子炉の稼働に、道を開いただけなのではありませんか?
しかも高速増殖炉『もんじゅ』に関する国家予算の浪費も止まらなければ、核燃料サイクルも継続です。
これでは原子力発電の段階的廃止どころか、原子力ルネッサンスの復活です。
原子力発電の段階的廃止について『討議の場』を設けながら、肝心の廃止については何の結論も出さず、『ついでの方の』原子力発電所の新規建設の方だけ承認する。
こんな狡猾なやりかたがあるでしょうか?
これが日本の政治なのだと認めた瞬間、大げさに言えば、日本の民主主義国家としての実体は崩壊します。
それほどの国民 = 主権者に対する、痛烈な裏切りだと思っています。
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【宇宙フォトグラフ・オブ・ザ・イヤー・2012】受賞作決定
アメリカNBCニュース 9月21日
(写真をクリックして、大きな画像をご覧ください)
M51星雲としても知られるワールプール銀河系は、これまで人間が確認した中、宇宙で最も写真映りの良い星雲です。
しかし、撮影の仕方によって結果は随分違ってきます。
この点、オーストラリアのカメラマン、マーティン・ピューの撮影した作品は、英国王立天文台が主催する『宇宙フォトグラフ・オブ・ザ・イヤー』を受賞するに値する、衝撃的なものでした。
記者会見で英国王立天文の代表的天文学者の一人で、コンテストの審査員でもあるマレック・ククラは以下のように語りました。
「この作品は、アマチュア天文学者が打ち立てた金字塔とも言うべき作品です。私が見たM51星雲の写真の中で最高のものの1つです。」
今回のコンテストには800点以上の作品が応募され、英国王立天文は19日水曜日、受賞作品を発表しました。
マーティン・ピューはフリッカー(インターネット上の写真専門サイト)を通し、今回の名誉についてこう語りました。
「文句なくうれしいよ!」
しかし実はこの受賞、彼にとって初めてではないのです。彼は2009年のコンテストでも最優秀賞を受賞しているのです。
天文学の権威として英国のテレビ番組で最も有名なバトリック・ムーア卿は、アマチュアでありながらプロ顔負けのこれほど高いレベルの作品が集まったことに、大変満足していると語りました。
「これらの作品は、一昔前ならアマチュアにはとても手の届かなかった、高価な機器によって撮影されたものです。」
「題材の選択も素晴らしいものでした。写真家にとって夜空の撮影は本当に難しいものです。その点、今回新たに参加した人々も、実にすばらしい作品を応募してくれました。」
それでは受賞作品をご覧ください。
さらに多くの作品を王立グリニッジ博物館のウェブサイト[ http://www.rmg.co.uk/ ]でご覧いただけます。
[1] ワールプール銀河系(別名M51星雲) 撮影者 : マーティン・ピュ(オーストラリア)
大賞受賞作品
講評「近い場所に存在する巨大な重力により、ワールプール銀河系の星々が、かすかな光跡を描きながら、らせん状に動いている様子が、美しく静謐なイメージとして見事にとらえられている。背景に見えるのは、さらに遠い場所にある別の星雲。」
[2] [スター・アイスフォール]宮坂まさひろ(日本)
地球と宇宙部門 : 最優秀賞
氷りつく景色の上の夜空で輝く、オリオン、牡牛座とプレイアデスを撮影したこの写真には、一編の詩が添えられていました。
「星が点から舞い降りてくる
そして星たちはつららへと姿を変えていく
星たちはこの場所で永遠の眠りについていく
[3] [金星の太陽面通過]クリス・ウォーレン(英国)
太陽系部門 : 最優秀賞
この受賞作品が描くように、今年6月、金星の太陽面通過が見られました。
この写真は水素アルファ・フィルタを使用して撮影されており、雲間にのぞく太陽の右上方を金星が通過しているのが解ります。
太陽の半分を隠す雲の輪郭について、「あたかもロンドンに群生するブラックヒースのように見える」とウォーレンが記しています。
[4] [プレイアデス星団]ジェイゴ・フォン・コーラス(カナダ)15歳
少年部門最優秀賞(16歳以下)
「長時間露出撮影をしたらどうなるのか、試してみた結果がこの写真です。夕暮れ近くに一時間ずつシャッターを開け放して2枚撮影したうちの一枚です。僕の最高傑作です。」
[5] [金星と木星の接近]ローラン・ラヴェデ(フランス)
金星・木星接近写真 : 特別賞、人間と宇宙部門 : 最優秀賞
ラヴェデが受賞したのは、今年3月15日に見られた金星・木星接近をテーマにした特別部門賞です。
フランス北西部ブルターニュ地方のトレギュンネック海岸で撮影されました。
「上空、右上に大きく輝いているのが金星、その左下にあるのが木星です。」
「プレアデス星団、おうし座、金星と木星、そして自分が斜めに一直線に並ぶようにデジタル・フレームで確認しながら、自分が写真の右下におさまるようにしました。」
[6] [トランク星雲]ローラン・フェンエス(ハンガリー)
最優秀新人賞
昨年写真を始めたばかりで、一度もコンテストに応募したことが無いフェンエスが受賞しました。
[7] [ひまわり銀河(M63星雲)]トーマス・リード(英国)12歳
ロボット望遠鏡部門 : 最優秀賞
ブラッドフォード・ロボット望遠鏡を使って撮影されたこの写真について、トーマス少年はこう書いています。
「星雲が美しいらせんを描いているこの写真が大好きです。ひまわり星雲のことについて興味があったのと、はるか遠くにある星雲をどうしたら写真で表現できるのか、知りたかったんです。」