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トランプの離脱宣言 : 中距離核戦力全廃条約(INF)とは何か?エコノミスト流解説

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所要時間 約 7分

米国ソ連の二極対立から米国中国ロシアの三極対立の一層危険な状態へ

アメリカが中距離核戦力全廃条約(INF)から離脱することになれば、その影響は多方面に及ぶ

エコノミスト 2018年10月26日

 

1987年、中距離核戦力全廃条約(INF)が調印された日の朝、アメリカ大統領のロナルド・レーガンは当時ソ連を代表する立場にいたミハイル・ゴルバチョフに一対のカフスボタンを贈りました。
2人はともに時代を画することになった記念碑的条約である中距離核戦力全廃条約(INF)に署名し、互いにその手にあった剣を鋤に持ち替え、善意に基づく大国関係を構築しました。

 

しかしドナルド・トランプ大統領は再び剣に持ち替えることを決めました。
10月20日に、トランプはロシアと中国が「正気を取り戻す」まで、アメリカを中距離核戦力全廃条約(INF)から離脱させ、再びミサイルの開発整備すると発表しました。

この決定については、冷戦時代の遺物を捨てる賢明な選択だと解説する人もいます。
再び核軍拡競争を始める気なのだと解釈する人もいます…

そもそも中距離核戦力全廃条約(INF)とはどういうものなのでしょうか?

 

INF条約は、1970年代後半から1980年代初頭、ヨーロッパで発生した危機的事態に起源を持っています。

当時ソビエト連邦がSS-20ミサイルを開発配備しました。
このミサイルはロシアの奥地からヨーロッパの大部分を正確に攻撃できる高度な性能を持っており、ヨーロッパ各国は驚愕することになりました。

 

当時アメリカが西ヨーロッパに配備していたのはソ連の領土にまでは到達不可能な短距離ミサイル、そして国内の発射装置と国外を航行できる潜水艦に搭載する長距離ミサイルを保有していましたが、中距離に分類されるミサイルは保有していませんでした。
もしソ連がSS-20でヨーロッパを攻撃した場合、アメリカは最終兵器ともいうべき長距離ミサイルを使わざるを得ませんでした。
ヨーロッパの同盟国は直接攻撃されたのでなければ、アメリカがそこまで踏み切ることはないだろうという焦りがありました。

こうした懸念を払拭し、ソ連に方針変更を迫るため、アメリカはパーシングII弾道ミサイルと新しい地上発射巡航ミサイルをヨーロッパに配備しました。
今度はソ連側が懸念を深める番でした。
これらは発射から10分以内にモスクワに到達する可能性があり、そうなればソ連指導部はパニックに陥ってしまう可能性がありました。

 

両陣営の軍部の思惑とは別に、事態の進展を憂慮するヨーロッパの人々は全域で核兵器反対闘争を全域で繰り広げました。

 

INF条約はこの混乱しきった状況に活路を開くものでした。
この条約は先制攻撃用のソ連とアメリカのミサイルだけでなく、射程範囲 480キロ~5,300キロのすべての地上ミサイルの飛行実験、開発、配備を禁止しました。
アメリカ側は既存の兵器約3,000基を廃棄、ソビエト連邦はその2倍の兵器を廃棄しました。

ではなぜここに来て行き詰まりを見せているのでしょうか?

 

理由のひとつはロシアの不正行為です。
ロシアが9M729型と呼ばれる射程範囲がINFの範囲に入る巡航ミサイルの飛行実験を実施したことをアメリカが探知し、ヨーロッパ各国もその事実を確認しました。

 

もう一つは中国の理由は中国です。
2000年代プーチン大統領は台頭著しい中国を含めロシアと緊張関係にあった国家に対応するため軍事力の整備を熱心に行いましたが、その中に非核弾頭を搭載する中距離ミサイルの開発が含まれていたのです。
その後ロシアと中国の関係は改善され、こうした懸念は薄れました。

しかし多数の中距離ミサイルの整備を含めた中国の軍事力の強化は、今度はアメリカの懸念材料になりました。
INF条約があるため、アメリカは多機能高性能ながら高価な船舶、潜水艦、航空機を整備する必要に迫られました。
こうした現状を見て、トランプは離脱を宣言したものと見られています。

 

もしアメリカがこのまま中距離核戦力全廃条約(INF)から離脱することになれば、その影響は多方面に及ぶことになります。

 

まず第一に、ロシアはヨーロッパ各国を射程に収める中距離ミサイルの整備を急ぐことになる可能性があります。
その中には開発済みの9M729だけでなく、INFの上限を超える射程の実験が行われた大陸間弾道ミサイルであるRS-26「Rubezh」も含まれる可能性があります。

 

第二にアメリカがこれらの兵器に対抗できる兵器開発をスピードアップすることになるでしょう。
アメリカの軍事当局はこうした研究がまだ「初期段階」にとどまっていると認めています。
そして発射実験を何年も行っていません。

第三にアメリカがこうしたミサイルをヨーロッパに配備する際には、多大な外交的努力が求められることになります。
ヨーロッパ各国首脳は「プーチン大統領の脅威」によって自国が「報復攻撃の対象となる可能性」を恐れており、新たなミサイルの配備の受け入れについて尻込みする可能性があります。
もしアメリカがNATOの頭越しに直接ポーランドのようにアメリカとの同盟に熱心な1、2カ国と直接取引をすれば、今度はNATOの同盟維持に問題が生じる可能性があります。

 

アジアの同盟国の対応は一層微妙です。
日本は米国の中距離核戦力全廃条約(INF)からの離脱撤退に反対する一方、韓国は中国との関係改善に取り組んでいます。
どちらも米国の新しいミサイル配備はしたくないというのが本音です。

 

グアムにミサイルを配備するのはアメリカの自由ですが、軍事専門家は高度な地上ミサイルシステムを小さな島に詰め込んだら、いざ戦争となれば格好な攻撃目標になると指摘しています。

 

ゴルバチョフ、レーガンの合意から30年、事態は再び錯綜することになってしまいました。

 

https://www.economist.com/the-economist-explains/2018/10/26/what-is-the-inf-treaty

 

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