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【 戦争 : 彼ら自身の中に潜む最悪の敵 : 『傲慢: 20世紀の戦争の悲劇』 】

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所要時間 約 9分

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軍部の思い上がり、軍政策の傲慢さが、一般市民を繰り返し地獄に送り込んだ
人種的偏見、ハイパー国家主義・軍国主義、『神州不滅』…日本人に塗炭の苦しみをもたらしたもの
他民族に対するいわれのない人種的偏見・文化的偏見は、きわめて危険な自滅的思考法
著者 : アリステア・ホーン、ヴァイデンフェルト&ニコルソン社

ブッシュイラク戦争
エコノミスト 11月7日

サー・アリステア・ホーンは年老いた賢者です。
この英国の歴史家の多くの著作の中の一冊、アルジェリア戦争とその負の遺産について書かれた本は、イラクに侵攻し4年に渡る占領を続けた挙句、各地で血で血を洗うような反乱が相次ぎ当時窮地に陥っていたアメリカのブッシュ大統領が、最良の選択をするための物言わぬ助言者として常に手元において離さなかったと言われています。
「平和な時代における野蛮な戦争:アルジェリア1954-72」を出版してから30年以上が経った2007年、ブッシュ大統領の執務室に招かれたアリステア卿はその持前の礼儀正しさから、最良の選択はそもそもイラクには手を出してはならないというアドバイスだけは言うのを控えた可能性があります。

91歳になって刊行された彼の最新の著作は、軍事の傲慢さとそれが引き起こした影響、そしてその傲慢さが20世紀の戦争においてどのような結果をもたらしたのかについて語られています。

古代ギリシア人にとって傲慢とは、自信過剰に陥った指導者が神を神とも思わなくなった自己肥大の愚かさそのものでした。
傲慢になった指導者はその後必ず情勢の急変に見舞われ、結局最後には天罰を下されることになりました。

空襲01
アリステア卿が主題としたのは、史上名高い将軍や国家主義的指導者が軍事を優先し、強力な軍事力の整備を達成した挙句、その後必ず後継者が自信過剰に陥りそして傲慢になり、国と国民に惨憺たる地獄をもたらすことになった史実です。

著者はこの主題を証明するための戦争や紛争事例には事欠かなかったようです。
しかしアリステア卿は題材を絞り込み、20世紀前半に起きた6つの戦いを選び出しました。
それらの戦いは人類史上、最も多くの血が流されたものでした。

その中に1905年、日本人がロシア艦隊を覆滅した日本海海戦が含まれています。
そして世界的にはほとんど知られていない1939年のノモンハンの戦い。
この戦いでは第二次世界大戦における傑出した将軍の一人であるゲオルギー・ジューコフ将軍が関東軍を撃破、日本はそれ以上の北方への進出を断念せざるを得ませんでした。
そして長期的に見れば成算の無い真珠湾に対する冒険的奇襲のわずか6カ月後、日本はミッドウェー海戦で決定的敗北を喫したのです。

スターリングラード01
そしてもうひとつの戦いは1941年、モスクワ郊外におけるドイツの誇るヴェアマハト(ドイツ国防軍)の敗北であり、アリステア卿はこの戦いが『緒戦の終わり』であったと見ています。
第二次世界大戦における太平洋戦線、ヨーロッパ戦線において、軍の誇大妄想がその後敵味方併せてどれ程の悪影響をもたらすことになったか、憂鬱な報告が続きます。

その最初は1950年、ダグラス・マッカーサー将軍が虚栄心に突き動かされるようにして38度線のヤルー川を強行突破した結果、中国軍の朝鮮戦争への参戦という悲惨な結果をもたらしました。

第2はその4年後、ベトナムの民族解放戦線・ベトミンのヴォー・グエン・ザップ将軍によるディエンビエンフー要塞の陥落です。
ベトナムを植民地化していたフランスは、この要塞に1916年のヴェルダン要塞並みの威力を期待していましたが、結局は陥落し、フランスの撤退を決定づけることになりました。
しかし独立派のベトナム国民の喜びもつかの間、今度はアメリカのベトナム介入を招く結果となりました。

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これらの戦に共通するテーマのひとつは、戦争の動因の中に『人種的優越』という考え方があったという事実です。

19世紀から20世紀への入り口、日本は急速にな工業化を実現し、軍備についてもまた急速に整備を進め、同盟国となっていた英国も最新式の軍艦を提供するなどしていましたが、大国ロシアは日本など歯牙にもかけていませんでした。
包囲された旅順要塞の救援のため、極東に向け大艦隊を18,000マイル(約29,000キロ)も遠征させるなど、今となってみれば間違いなく愚かな行為です。
兵も軍艦も疲れ切った状態でやっとの思いでたどり着いたロシア艦隊を待ち受けていたのは、最新式の軍艦を揃え、東郷平八郎司令官以下訓練の行きとどいた兵員によって構成され、卓越した作戦を準備していた日本艦隊でした。
しかし日本はその衝撃的な勝利に酔うことによって、40年後に広島と長崎を見舞うことになる容赦ない攻撃の種をまくことになりました。

真珠湾
第二次世界大戦(太平洋戦争)において真珠湾への攻撃を立案し、ミッドウェーへと日本艦隊を勧めた山本五十六将軍は、日本海海戦において海軍の下級将校を務めていました。
山本将軍によって、そして1920年代から1930年代にかけ著しい台頭を見せその権力基盤を強化した国家主義者、軍国主義者によって1905年の日本海海戦の勝利は、いわば「神秘的なメシア信仰」として国民の間に流布され、定着させられました。
この時代、日本がアジア大陸への侵略を進めていったことは、起きるべくした起きたことだと言えるかもしれません。
武士道精神、ハイパー国家主義、そして海戦をすれば無敵という錯覚、そして『神州不滅』、これらはすべて国民に対するプロパガンダであったはずでしたが、いつしか国家の指導部までがこうした思考に支配されるようになっていたのです。
そして前世紀のヨーロッパ人がそうであったように、日本人は中国人に対し人種的優越性と文化的優位性を感じていましたが、退廃的なアメリカ人、そして植民地の白人支配層に対しても同様の感覚を持っていました。

こうした日本人の考え方について、アリステア卿はこう語っています。
「きわめて危険な、自滅的思考法」

広島14
軍の傲慢さがどれ程悲惨な結末をもたらすか、その具体例には枚挙のいとまがありません。
しかしアリステア卿の博識と卓越した表現力は、そのいちいちを的確にとらえています。
今日に至るまでの世界各地で発生している紛争もまた、その実態は似たり寄ったりです。

しかしアリステア卿の文章は読むものを退屈させません。
彼の判断を決定づけているのは、人間のうんざりさせられる愚かさに対する理解です。

もしこれから何らかの軍事行動を考えている首相やその他の政治的リーダーがいたとしたら、その全員が読まなければならないのがこの著作です。
ブッシュ大統領がもし最初からこの著作を読むことができていたら、わざわざアリステア卿の過去の著作の数々を読み漁る必要は無かったかもしれません。

http://www.economist.com/news/books-and-arts/21677604-study-military-arrogance-and-its-terrible-consequences-their-own-worst-enemy?zid=306&ah=1b164dbd43b0cb27ba0d4c3b12a5e227
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これまでの史実は、国の指導者が軍事について慎重さの上にも慎重さをもって臨まなければならないことを語っているのではないでしょうか?
『積極的平和主義』などという広告代理店が考えたような宣伝文句の下に戦争というものを軽々しく取り扱って良いものなのかどうか、その事を真摯に考えなければなりません。

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