ホーム » エッセイ » 【 核兵器を捨て去ることができない世界・消える事のない脅威と恐怖 : 広島の原爆記念日 】《後篇》
軍事同盟の強化、そして軍備拡張、唯一の被爆国である日本は今、大きな誤りを犯そうとしている
核実験の後遺症に苦しむ人々 - より多くの安全を確保するため『少しばかりの人間たちが犠牲になったに過ぎない』
スヴェンドリニ・カクチ / IPSニュース 2014年8月7日
広島平和研究所のジェイコブ・ロバーツ教授が次のようにIPSに語りました。
「求められる事はひとつ、人間を殺戮する目的を持ち、人間に計り知れない苦しみをもたらす核兵器の廃絶です。この核兵器を所有している以上、核保有国は刑事犯罪者に等しいと言わなければなりません。」
彼は現在の反核運動は、核兵器保有国でありながら1968年の核拡散防止条約(NPT)の決議を守ろうとしない国々に対し、はっきりと狙いを定め集中的に抗議を行っていると語りました。
同教授は南太平洋マーシャル諸島の国々が制定している3月1日のメモリアルデーについて語りました。
キャッスル作戦と名づけられ、アメリカの軍産複合体が1954年3月1日に開始したマーシャル諸島のビキニ環礁、エニウェトク環礁の二つの環礁での一連の核実験の後、これらの国々は放射能汚染がもたらす悲惨な影響に苦しまなければなりませんでした。
一連の核実験による放射能汚染は広島に投下された原爆の1,000倍と見積もられ、数千人が放射線障害による様々な症状に苦しめられることになりました。
冷戦時代におけるソ連との核兵器開発競争という時代背景もあり、アメリカは結局1946~1962年の間に合計で67回もの核爆発実験を行いました。
国家の安全保障のため核兵器が必要であるとして、その削減に取り組む姿勢を見せない核兵器保有国9カ国に対し、マーシャル諸島共和国は今年4月ハーグにある国際司法裁判所、そしてアメリカ合衆国連邦裁判所に対しそれぞれ訴訟を起こしました。
この訴訟は核拡散防止条約(NPT)の第6条『締約国による核軍縮交渉義務』の誠実な履行を求めています。
第6条は核兵器保有国、米国、英国、フランス、中国、ロシアの5カ国に対し
「できるだけ早い機会に核兵器開発競争に終止符を打ち、各国にある核兵器を減らしていくために実効性のある措置を採るよう、交渉を続行すること」
その義務の遂行を求めています。
広島の場合と同じく、アメリカ合衆国はマーシャル諸島の核実験による広範な被害について謝罪することは無く、「悲しみ」を表明したに過ぎません。
マーシャル諸島の人々が被った被害について、
「より多くの人々にとっての安全を確保するため、『少しばかりの人間たちが犠牲になったに過ぎない』」
アメリカはそう考えている、IPSニュースの取材に対しこう語るのはマーシャル諸島共和国の全上院議員のアバッカ・アンジェイン・マディソン氏です。
非難されるべきなのはアメリカだけではありません。
長崎大学の核兵器廃絶研究センター( http://www.recna.nagasaki-u.ac.jp/ )の責任者である梅林宏道教授は、東アジア地区を核兵器が一切存在しない場所にするための取り組みを主導しており、国家の安全保障の実現のためには核兵器が必要だとの考えを政策化する、その推進を図っていると言われる安倍政権を厳しく批判しています。
梅林教授は、核の傘の下アメリカとの軍事提携を密接なものにした上で日本の防衛力の強化を図ろうとしている現政権の政策をストップさせるための運動の先頭に立っています。
「東アジアにおける北朝鮮の核の脅威は、日本政府によって軍事力を強化するための格好の口実として利用されています。」
「唯一の被爆国である日本は今、大きな誤りを犯そうとしています。」
〈 完 〉
http://www.ipsnews.net/2014/08/atom-bomb-anniversary-spotlights-persistent-nuclear-threat/
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福島第一原子力発電所で事故直後の2011年6月に運転を開始したもののトラブルが相次ぎ、3か月後には停止してしまったフランス・アレバ社製の汚染水処理装置を『廃止する』と、東京電力が発表した旨、今日8月12日付の朝刊が報じていました。
『廃止』とは言い回しの問題で、使い物にならずに『放棄した』というのが実態に近いのではないでしょうか。
そしてその費用については、「契約上、明らかにできない。」というのが東京電力側の言い分です。
福島第一原発では敷地の周囲の地面と地下を凍らせ、地下水が流れ込まないようにするだけで3,000億円がかかることになっています。
同じ日付の朝刊で阪神大震災後の神戸市の『JR新長田駅南地区・大正筋商店街』再開発の総事業費が2,710億円と紹介されている( http://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201408/20140812_73012.html )のを見て、ゲンパツというものが恐ろしい勢いで国民の税金をむさぼり食うモンスターだということに気づかされました。
そして今、軍備拡張という新たなモンスターが誕生しつつあります。
ゲンパツも軍拡も政府高官や巨大企業の経営者の手の間を巨額の税金が行き来する一方、弱い立場の者ほどその恩恵が少ないという点において、構造・体質が驚くほど似ています。
下の写真集を見てください。
アメリカの大手メディアが米国軍のイラク空爆の開始を正当化する意味で大きく扱っているのではないかとも勘ぐることもできますが、被写体となった少数民族の人々の悲劇は紛れもない事実です。
現地で戦闘が激化しても、イスラム国家の高官も、現在のイラク政府の政治家も、そしてアメリカ軍において星を二つも三つも肩につけた高官たちも傷つくことはありません。
ヤジディ教徒の帰趨など、どの立場の高官たちにとっても重要な問題ではないはずなのに、戦争になるとなぜか真っ先に犠牲者にさせられてしまうのが少数派の無力な人々です。
この理不尽さこそが戦争の本質なのだと、私たちはこの目でた確かめながら、肝に銘ずべきではないでしょうか?
明日17日(日)は掲載をお休みいたします。
よろしくお願いいたします。
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【 イスラム国家の武力攻撃から避難するクルド系少数派ヤジディ教徒の人々 】
アメリカNBCニュース 8月12日
(写真をクリックして、大きな画像をご覧ください)
イラク北部で勢力を拡大するイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」が、クルド系少数派ヤジディ教徒500人以上を殺害し、数万人が散り散りに避難する事態となりました。
イスラム国はイラク北部、シリア領内で国家樹立を宣言、ヤジディ教徒やキリスト教徒が命の危険を感じて避難を始めました。
2014年8月11日、シリアとの国境方面に向け避難するヤジディ教徒の人々。(写真上)
靴を衣服で包み、逃避行を続けるヤジディ教徒の女性。(写真下・以下同じ)
アメリカ軍がイラクから撤退する際に遺棄して行った軍事車両と武器を多数横奪したイスラム国家軍は、この数週間でイラク北西部の都市を次々に攻略しました。
その結果多数の人びとが自宅を負われ、逃避行に移らざるを得なくなっています。
いったんシリア領内に逃れ、ドホーク地区のフィシュカハーバーから再びイラク領内に入る避難民。8月10日。
イスラム国家はシリア国境に近いシンジャルの山中に『死のキャンプ』を作り、クルド系少数派ヤジディ教徒500人以上が殺害されたと言われます。
フィシュカハーバーはクルド人が暮らす町です。
8月12日、トルコ領内のシルナクまで避難し、食事の配給を受けるため一列に並ぶヤジディ教徒の避難民。
8月10日、シリア領内のデリケに設けられたキャンプで一息つくヤジディ教徒の避難民。
クルド人組織によれば、これまで45,000人が国外に逃れましたが、未だ数千人が山岳地帯に取り残されていると見られます。
8月10日、イラク-シリア国境で、人道援助物資に手を差し出すヤジディ教徒避難民。
8月10日、シリア領内のデリケに設けられたキャンプに避難したヤジディ教徒避難民。