ホーム » エッセイ » 【 スティグリッツ教授の『アベノミクスよりマシな経済政策』の提案 】《後篇》
低所得者層と中所得者層に対する財政支援等、日本経済の需要の足腰をしっかりさせることがまずは急務
日本の優れた技術力、商品開発力を経済成長に結びつけられる政策モデルとは?
日本経済にほんとうの好循環を実現できる政策モデルとは?
ジョセフ・スティグリッツ/ ガーディアン 2016年9月15日
あるいは日本政府は負債を無利子の資金に転換するという手段を採ることも可能です – 政府債務の解決手段として長い間禁じ手とされてきた貨幣発行(貨幣鋳造)という手段です。
たとえ貨幣発行による金融政策が国債を無期限の利子給付債権に転換する方法と比べインフレ懸念を大きくする可能性があるとしても、反対意見は出にくいと考えられます。
異論があるとすれば、それは効果が出るまで多少時間がかかるというものだけであるはずです。
多額の負債を抱える日本政府が、金利の上昇により窮地に陥ることを防ぐための第2の方法は、政府の負債の大きな部分が、実は政府資金そのものだという事を認識するところから始まります。
ウォール街の多くの人間は、日本の純負債は政府以外の市中に対するものであるという認識に欠けているように思われます。もし日本政府が政府資金から借り入れをしている分を返済すれば、実際にはそこにどういう違いが生じるのか、誰も解りません。
しかし日本の公的負債のGDPに占める割合だけを見てきたウォール街の人々は、この事実に気が付けば日本に対する評価が一変することでしょう。
結局こうして見てくれば、日本の経済不振の根本的要因として残るものは、つまるところ需要の不足ということになります。
これを解決するための手段は、消費税の減税、投資に対する税額控除の拡大、低所得者層と中所得者層に対する財政支援、そして政府予算を技術開発と教育分野により多く配分していくということになります。
旧態な経済学はインフレの発生を恐れます。
しかし日本経済が必要としているものは、その『恐れ』を現実のものにする事なのです。
日本が抱える問題を子細に見ていくと、需要側だけにはとどまらない問題があります。
一時間当たりの生産性を検証すると、日本は特にサービス産業において供給側にも問題があることが暗示されています。
日本の製造業の分野で数多く見られる独創性が、サービス産業に限ってはまったくと言って良い程確認出来ません。
当然の成り行きとして日本が力を注ぐべき成長分野はサービス産業の技術開発です。
例えばヘルスケア産業分野における診断用機器の開発などです。
しかし、安倍晋三首相はこれとは全く異なるアプローチをしてきました。
そして米国他の環太平洋地域の10カ国による環太平洋パートナーシップの取引協定、すなわちTPPを支持しています。
安部首相はTPPに参加することにより、自ら手を下さなくとも、必要とされる日本の農業分野の構造改革が否応なく進むものと考えているようです。
しかし面白いことにアメリカ国民の多くは、TPPがアメリカの歪の多い農業政策を改善に向かわせる効果があるとは考えていません。
実際、現在の日本経済においては農業分野が占める割合は小さく、仮に安倍首相が期待する構造改革が実現したとしても、GDPの数値に効果が現れることはほとんど無いでしょう。
ただ別の意味合いとして、そうした改革は日本の若い人々がその独創性を発揮する格好の場となるという意義はあります。
ただしそのための環境を作るために、TPPが最良の方法なのかという疑問は依然残ります。
他方で安倍首相が日本の労働力不足を解決する方法として、女性と男性の条件を完全に平等なものとする政策を進めていることは正しいというべきです。
成功すれば、日本の生産性向上と経済成長に確実に貢献することになります。
4分の1世紀に渡る停滞が続いたにもかかわらず、日本は単一経済圏として世界で3番目に大きな規模を維持しています。
日本国民の生活水準を上げるための政策は、グローバル経済の中の他の分野における需要と成長を促進する効果を発揮することが出来ます。
と同時に重要なのは、そうして生まれる革新的な商品や技術は世界と共有することが可能であり、最終的に日本の輸出の成功につながっていくという事です。
日本の革新的な商品や技術が他の先進国における生活水準を引き上げ、その結果増々日本の商品や技術に対する需要が高まっていくという、本当の好循環を生むことが可能になるのです。
〈 完 〉
https://www.theguardian.com/business/2016/sep/15/a-better-economic-plan-for-japan
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秋期の国会が始まり、安倍首相はアベノミクスを飽くまで推進するつもりのようです。
しかし私は、このスティグリッツ教授の提案の方が、ずっと実効性が高いように思います。
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【 10月1日の報道写真から 】
アメリカNBCニュース 10月1日
ダマスカス郊外の反政府勢力支配地区に対する空爆の現場から、子どもを救い出す男性。(写真上)
ダマスカス郊外の同じ現場で、救急車の中で搬送を待つ負傷した子供。
http://www.nbcnews.com/slideshow/today-pictures-october-1-n657986