矢継ぎ早の場面転換、そして何より『ムード作り』 - 国民向けに周到に演出される『回復』シナリオ
国民を救済するために必要な政策は手つかずのまま、緊急性の低い安全保障・外交政策にばかり国力を浪費するアベ政治
エコノミスト 2016年11月12日
▽ テフロン加工の安倍政権
その経済政策の成果には見るべき実績がほとんど無いにも関わらず、安部首相の個人的人気には陰りがみえません。
最近行われた世論調査は、安倍政権の支持率が60%に達していると試算しました。
その理由の一つが対立する野党のかつてない弱体化にあります。
安部氏は2012年の末、それまで3年間続いた民主党の政権運営がさんざんな失敗に終わった後、国の立て直しを約束して政権の座に就きました。
その民主党は現在、党名を民進党に変更し、野党第一党となっています。
民進党のイメージはまだ回復せず、選挙投票の際の支持率においても自民党に遠く及びません。
その事実は、最近行われた2度の衆議院の補欠選挙の敗北という形で証明されました。
「安部首相はタイミングという点で、運に恵まれました。」
ひとりの民進党議員がこう語りました。
「我々の政権運営は完全に失敗しました。これに代わり安倍首相は明快な、そして具体的なメッセージを発信しました。」
同様に自民党内でも、安倍氏に対抗できるだけの力を持ったライバルはいません。
1990年代に行われた選挙制度改革は、それまで強大な影響力を振るっていた派閥の力を大いに削ぐことになりました。
そして彼らをおとなしくさせるため、安倍氏は辣腕で知られる菅義偉官房長官に大きな権限を与えました。
将来の首相の座を窺う外務大臣岸田文男氏のような人材を重要閣僚として積極的に閣内に取り込み、彼らが公然と安倍氏を避難することが出来ないようにもしました。
2015年に行われた直近の自民党総裁選挙では、立候補を予定した対立候補が必要な20人の推薦人を獲得できませんでした。
この後、党内には安倍氏に対抗しようとする人間がいなくなったのです。
「安部首相が選挙に勝ち続ける限り、私たちは幸せなのです。」
自民党議員である河野太郎氏がこう語りました。
しかし安倍氏自身、野に下っていた5年間に実に多くの事を学びました。
安部氏は日本国憲法を書き換えるという野心を隠してはいませんが、話をする際には特に経済問題など日本人が聞きたがる話題をできるだけ多く取り上げるように気をつかっています。
「安部氏はあらかじめ用意した目玉商品を派手に宣伝しながら政権に復帰しました。目玉商品とは経済政策であるアベノミクスです。」
テンプル大学のジェフ・キングストン教授がこう語りました。
安部首相は政策、方針、海外訪問とサミットなど国際会議を矢継ぎ早に次々とこなしました。
「安部首相は国民や報道機関が決して飽きることが無いように、ひとつ終ればまたその次とどんどんテーマを繰り出しています。」
匿名を条件に側近の一人がこう明かしました。
「あるいは何が手つかずになっているか、その広報も怠りません。」
上智大学の中野孝一教授がそう付け加えました。
こうした手法がこの国の精神風土に重要な影響を及ぼしたと、連立与党公明党の山口那津男党首が指摘しました。
「政治的混迷と内向きの外交政策、そして経済不振が続いたいわゆる『失われた20年』から、自分たちは今確実に抜け出しつつあるのだという確信を国民が抱きはじめています。」
安部首相自身は、たとえ部分的に自分の考えと一致しない点があっても明確なビジョンを持っているからこそ、国民は自分を支持しているのだと語っています。
結論すれば安倍氏は日本の首相として極めてユニークな、そして強力な立場を手に入れました。
しかし安倍首相がその権力をどのように使うつもりなのかは、ちょっとしたミステリーのままです。
これまで安倍首相は安全保障問題や国際関係においては大胆な政策を行ってきましたが、もっと緊急性が高いはずの日本経済の停滞や人口減少といった問題にはさほどの熱意を示していません。
さらには労働市場の改革や日本への移住の制度改革には臆病でした。
さらには主婦にフルタイムで働くことをためらわせる税額控除を改廃する計画をつい最近断念しました。
それによって不安定なパートタイムの仕事に頼らざるを得ない主婦の立場はそのままです。
国民を救済するために必要な政策には手をつけず、緊急性の低い政策にばかり国力を浪費する政治姿勢は、恥ずべきものになるでしょう。
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この記事を読んで、国民生活そのものの改善にはほとんど成果らしい成果を上げていない、むしろ民主主義システムの破壊や脅迫、そして原発の再稼働など強権政治を続ける安倍政権の支持率が下がらないカラクリがやっと理解できたように思います。
テレビやマスコミ好きの日本人の心理を巧みに突いた、あざとい手法。
たからこそ海外のメディアがどれだけ批判を強めようとも、国内メディアに対する徹底的な支配統制が必要だったのですね。
こうした姿勢へのあなたの評価はいかがでしょうか?
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【 一般市民に犠牲を強いながら進められるモスル奪還作戦 】《3》
アメリカNBCニュース 2016年11月22日
イラク軍特殊部隊と民兵が協働し、イスラム国(ISIS or ISIL)からモスルを奪還する戦い。
しかしその陰では多数の一般市民が住んでいる場所からの避難を余儀なくされるか、さもなくければ負傷させられたり、殺されたりしています。
2016年11月17日、モスル近郊のサマア地区に設置された野戦病院で、頭部挫傷の治療を受けた後軍医に介抱される生後18ヵ月のヤッセム。(写真上)
声を上げて苦しむ砲弾の破片により上半身に負傷したモスルの住民ハッサン、彼の息子生後18ヵ月のヤッセムも頭部挫傷のため治療を受けていました。(写真下・以下同じ)
イラク軍部隊はイスラム国(ISIS or ISIL)が支配するモスルに侵攻し、いくつかの地区の奪還に成功しましたが、市内全域を制圧するには尚1カ月を要するとみられています。
モスル近郊に設置された野戦病院にはわずか数時間の間に担ぎ込まれる負傷者が相次ぎましたが、その中には多数の子どもたちも含まれ、このうち5人が死亡しました。
11月20日モスル近郊でイラク政府による食料の配給を待つ女性たち。
イラク北部のニネバ平原で、イラク軍に捕らえられ、トラック後部に乗せられているイスラム国(ISIS or ISIL)兵士とみられる戦闘員。
11月16日モスル市内を進撃するイラク政府軍特殊部隊のすぐ前方で爆発したイスラム国(ISIS or ISIL)の自動車爆弾。
http://www.nbcnews.com/slideshow/battle-mosul-takes-toll-civilians-n687261