ホーム » エッセイ » 【 ついに連続殺人鬼の正体を現した、核の『平和』利用・原子力発電 】〈第3回〉
[隠されたコスト、そして何のための補助金]
『原子力発電所経営がうまくいけばその利益は企業の取り分、失敗したらその責任は納税者に転嫁すべし』
チップ・ワード / ル・モンド・ディプロマティーク / フランス
▽隠されたコスト、そして何のための補助金
もうひとつの問題、原子力発電の真のコストは、その推進者たちによって入念な工作が行われ、一瞥しただけでは解らないようにされてしまいました。
原子力発電はその開始以来、アメリカ合衆国政府補助金の上でも非常に優遇されてきました。
憂慮する科学者連盟による最近の調査により、ウランの採掘から核廃棄物を長期的に貯蔵する核燃料サイクルまで、あらゆる段階で30以上の項目にわたり補助金が支出されている事が明らかになりました。さらにはこうした補助金は、生み出された電力の市場実勢価格を上回って支給されている事も、あわせて報告されています。
こと発電となると、補助金は実に多方面に渡って支給されているのです。
今回の調査はこう結論づけています。
「いくつかの場合ではこのような補助金制度は、自由市場で電気を買う以上のコストを納税者に負担させる事になり、結果的に納税者を欺く事が起こり得るのです。」
アメリカ上院共和党の指導的立場にいるミッチ・マッコーネル率いる原子力発電推進派が、思い通りに事を進めることになれば、次世代の原子力発電所建設資金のため政府が借金を肩代わりする分も含め、さらに数十億円規模の予算が補助金の形で認められる事になります。
この補助金が無ければ、巨額の予算超過が発生しやすく、工事は遅れ、突然のキャンセルすら発生する事で悪名高い原子力発電所建設に、銀行が金を貸したがらないという事態に陥る、という点において原子力産業界にとって重要な問題です。
オバマ政権はすでに、新たな原子力発電所建設を可能にする360億ドル(2兆7,800億円)の追加補助金を提案しています。これにはメキシコ湾沿岸に建設予定の2基の原子炉のための予算40億ドルが含まれますが、これは東京電力 - そう、福島第一原発の運営会社として世界的に有名になった - との共同事業です。
こうした補助金を受けているにも関わらず私が議論すると、原子力発電の推進者たちは必ずこう言うのです。
原子力発電はコストの面で、風力や太陽光のような代替エネルギーよりも割安であると。
ぼろ儲けを目論む政治家たちは、単に原子力発電所を建設するだけでは満足しません。
連邦政府の役人たちは、核廃棄物の処理と管理投棄に巨額の費用がかかると想定してきました。
現在は廃棄物の受け入れを中止したネバダ州のユッカ・マウンテン(http://kobajun.biz/?p=712 ご参照ください)のような施設を、数十億、数百億ドルをかけてまた新たに建設する事になれば、その地の人々は国税、地方税の両方で負担を強いられる事になります。
原子力産業界のスポークスマンは、こうした補助金は数千の雇用を生み出す効果がある、と主張します。
しかし残念ながらマサチューセッツ工科大学が、2009年に行った調査はこう結論づけています。
今後一切原子力発電関連施設の建設・改修が行われなくなっても、太陽光、風力を含めた再生可能エネルギー設備への投資、エネルギーの節約のため建造物の改修等を行う事により、それ以上の雇用が生まれるのです。
最後に、最近改訂されたプライス・アンダーソン原子力産業補償法は、日本で起きたような大惨事がここ米国で起きた場合の、原子力発電会社の責任を限定しています。
福島の大災害からの日本の回復コストは、天文学的な金額になります。
ここアメリカでは、もし原子力発電所で事故が起きれば、そのツケはあなた、つまり一般市民が支払う事になるのです。
彼らは福島のような事故はここアメリカでは起きない、と主張しながら、その裏ではもうけを得るのは自分たち、損をするのは一般市民、と慎重に選り分けているのです。
私たち全員が原子力産業界の、以下のシナリオを知っておく必要があります。
『原子力発電所経営がうまくいけばその利益は企業の取り分、失敗したらその責任は納税者に転嫁すべし』
そしてもうひとつ、原子力発電の推進者たちは自分たちを『環境に優しい存在』だと宣言し、原子力発電は温室効果ガスを排出しないため、自分たちの業界は地球温暖化への理想的な解決手段であると主張しています。
そう主張することで、彼らは原子力発電の正体を隠そうとしています。
二酸化炭素が原子力発電所の煙突から出ていない、それは本当です。しかし原子力発電を行う事によって生み出される有毒な核廃棄物を処理し、安全に貯蔵し続けるための設備を維持していくためには、大量の二酸化炭素を放出する事が確認されています。
そして鉱山からウランを採掘し、原子力発電用の燃料棒に加工し、コンクリートと鋼財を使って巨大な原子炉を建設し、核廃棄物を1000年の間保管するため、信じられない程巨大な処分場を建設する。
そして福島のメルトダウンによって発生した放射性物質は、今や日本の食物連鎖に入ってしまっています。
いったいこれのどこが『環境に優しい存在』なのでしょうか?
〈つづく〉
http://mondediplo.com/openpage/how-the-peaceful-atom-became-a-serial-killer
+ – + – + – + – + – + – + – + – + – +
原発関連の記事を翻訳していると、時に胃がひっくり返るぐらいの怒りを覚える事があります。
『原子力発電所経営がうまくいけばその利益は企業の取り分、失敗したらその責任は納税者に転嫁すべし』
福島第一原発の事故でも、このチップ・ワード氏語るところの『シナリオ』通りに事態が進行しています。
「国が責任を持って行う」、何だか立派な事を言っているようですが、内実は東京電力ではなく、国民の税金を使って処理のほとんどを行う、ということに他なりません。
では私たちの「責任」とはいったいなんでしょうか?
その答えはこれまで翻訳して来た数々の記事の中にもありました。
「救済を求める広島・長崎の被爆者の声に耳を貸さなかった」事もそのひとつ(http://kobajun.biz/?p=1101)ですが、やはり
「原子力発電の偽りだらけのプロパガンダ」を鵜呑みにしていた事が一番でしょう(http://kobajun.biz/?p=1584)。
「今こそみんなが声を上げ、私たちは民主主義社会の住人である事を証明しましょう(http://kobajun.biz/?p=1600)!
後半は久しぶりにほっとするニュースを見たような気がします。
ただし食べられてしまうアシカを除けば......
+ – + – + – + – + – + – + – + – + – +
【 南カリフォルニアの楽しい休日 】
アメリカCBSニュース 2012年1月5日
南カリフォルニアはさまざまな形や大きさのお客さまが集う場所。
そしてここ数日間のお客さまはシャチの群れ。
レドンドビーチでCBSのニュース 特派員リー・コーワンがその理由を探ってみました。
レポーター : 私たちは毎日この場所で過ごすアリサ・シュールマン・ジャニガーに出会いました。
彼女は崖の上に立ち、双眼鏡を見ながら通りすぎていくクジラの数を数えています。
アリサ・シュールマン・ジャニガー「ほら、あの船の後ろ、船の右側をまっすぐ進んでるわ。」
熟練の動物学者である彼女は、いつもはこの海域でコクジラ、ザトウクジラの観察を行っていますが、今日は違います。
一群のシャチ、実際には2家族のシャチは、今週突然この南カリフォルニアに現れました。
こんなに南の方でシャチを見かけるのは本当に珍しく、彼女はうれしさに思わず飛び上がってしまいました。
レポーター「今の満足度を1から10の間で表すとしたら、どのくらいになりますか?」
アリサ「そりゃもう、25くらいよ!」(笑)
彼女は何枚もシャチの写真を撮りました – すごく近くで、もうすぐ触れそうなぐらい。
「海の中のギャングの王様と目と目が合う、ってどんな感じかわかります?背筋がゾクゾクする程感動するの。信じられないわ。」
彼女は研究者であるため、この場所へ立ち入り、シャチたちに近づいて観察することを認められています。なぜ彼らがこの場所にいて、何をしているのかを分析するため彼女はそれを報告書にまとめることになります。
ラニーニャ現象により、この海域の水温がシャチが普段棲息するモンテレー湾並みに低くなっていることも理由かもしれません。
実はシャチがこの場所にいる大きな理由の一つはカリフォルニア・アシカです。
アシカの生息数は1970年代から着実に増加を続けています。彼ら自身もかわいい動物ですが、シャチにとってはごちそうの大群にほかなりません。
「たまたまシャチの一家族が休暇旅行にやって来たら、食べるのにちょうどいいアシカを見つけた。数は多いし、捕まえるのも簡単、手ごろなレストランを見つけたのと同じことね。そこで親しい友人の家族も誘って一緒にやって来た、というわけ。」
アリサがこう説明してくれました。
「シャチの新たな一群が到着するたび、レドンド桟橋から見物客を乗せた船がやって来ます。船の中は乗客全員がシャチを見逃すことの無いよう、ちゃんとアレンジされています。ビル・ハッチャー(ナショナルジオグラフィックの名カメラマン)でもこれなら納得です。
ビル・ハッチャーではない男性「これまでは飼育されているシャチか、記録映画のようなものの中でしか見たことが無かったからね。それが野生の彼ら本来の姿を見ることができるんだから、素晴らしい限りだよ。」
レポーター : シャチたちも私たち人間に、少しは興味があるようです。
レポーター「ぼやぼやしてられませんね?!」 :
アリサ「ぼやぼやしてられないわよ!明日もここにいらっしゃい!」
レポーター : おエラいさんが許してくれるなら……