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アベノミクスの第3の矢こそは、全くの的はずれ・日本は再考すべき時に来ている
時代遅れの産業政策であり、過去の失敗例にも事欠かない
エコノミスト 6月15日
2013年初頭日本の安倍晋三首相が、3つの柱を持つ経済政策『アベノミクス』の内の最初の『2本の矢』、すなわち金融緩和策と景気刺激策について公表し、日本経済の構造改革を開始するとほのめかしました。
株式市場には期待感があふれ、株価は半年で約80%上昇しました。
そして安倍首相の支持率も急上昇しました。
市場は数カ月間幸福感に包まれていましたが、5月末、金融緩和策の継続性が不安視され、大量の株式が売却される結果となりました。
そして発表された『第3の矢』、言うまでも無くアベノミクス経済政策の中心となるべきものは、とてものこと目標には届かないものであることが明らかとなったのです。
事実、アベノミクスの第3の矢こそは全くの的はずれであり、その経済政策は本格的に始まってもいない段階ですが、すでに失敗の様相を呈し始めているのです。
アベノミクスの最初の2つの政策が一定の成果を上げていただけに、『第3の矢』の失敗はより大きなものになりました。
円安により輸出が促進される結果なり、東京ではインフレの兆候が出始め、長年続いたスタグネーションからの脱出が期待されました。
消費者心理も改善し、日本経済は2013年第一四半期に年率換算で4.1%の成長を達成しました。
4月には安倍首相が環太平洋パートナーシップ(TPP)の交渉開始のための書類に署名し、これまで競争原理が働いていなかった産業構造について、競争力を高めるための施策を打つと表明しました。
そして電力業界の構造改革も約束したのです。
6月5日、安倍首相はアベノミクスの『第3の矢』を放ちました。
その中には医薬品のオンライン販売の解禁や政府の年金基金に対して積極的に株式運用を図ることを求めるなど、いくつか有効な政策も含まれますが、政策の多くは時代遅れの産業政策であり、過去の失敗例にも事欠かないものです。
実効性のある規制緩和策、たとえばTPP参加のため必要となる労働市場の構造改革や競争力強化のための農業分野の自由化などは完全に棚上げされました。
そして本当に大胆な処置である出入国管理の緩和、電力制度改革、そして若年層や都市居住者に対して相応の権利を与えるための選挙制度改革などは、完全に外される結果となりました。
その理由は見え透いたものです。
7月の重要な参議院選挙前に、安倍首相はこれまで長く自由民主党(LDP)の支持基盤であった医師、農民、そして実業家を怒らせ、離反させたくないのです。
しかし今やアベノミクスの正体を見せられてしまった者としては、その中にはこのエコノミストも含まれますが、日本を経済停滞から引きずり出す機会があったにもかかわらず、結局は長く続く停滞の中に引きずりおろすことになるだろう『第3の矢』には本当に失望させられました。
GDPの240%という巨額の公的負債を抱えていながら、紙幣を大量に印刷し、その金を公共事業に投入するだけでは経済回復、まして成長など望むべくもありません。
日本を苦境に追い込んでいるものは、企業の内部に居て様々な規制を利用しながら硬直的な雇用体制を維持しようとする組織、そして貧弱なコーポレート・ガバナンスです。
これまでの株市場などの活況も、安倍首相はこうした問題を理解しているはずだという思い込みによるものでした。
安倍首相はスーパーマンのように電話ボックスに入って、今着ている服を脱ぎ捨てるべきです。
しかしまだすべてが失われてしまったわけではありません。
安倍首相の人気は高く、逆にライバル政党は追い詰められた状態です。
そして安倍首相は構造改革に対して及び腰を続ければ、かつて繁栄を極めた日本経済を長い引き潮の中に落とし込んだまま傍観していると非難されることになる、その事を知っています。
安倍首相は6月5日、構造改革は道半ばであり、参議院議員選挙後に成長戦略の第2幕が始まると語りました。
しかし安倍首相はTPP交渉に入る際の公約を果たさなければならず、そのためにはまずは自民党内の反対派の議員が改革に向かい合うよう、その姿勢を変えさせる必要があります。
とてものこと、得意の憲法改定論議などに気を逸らしている余裕などは無いはずです。
彼がやらなければならないのは、内閣のメンバーを改革派に入れ替え、反対派の党員の翻意を促すことです。
問題ごとに反対派の議員と向かい合い、その意見を変えさせなければなりません。
アベノミクス見限るのは、未だ早すぎるかもしれません。
しかし6月の第2週が終わった今、日本の状況は決して良いとは言えないのです。
http://www.economist.com/news/leaders/21579464-third-arrow-reform-has-fallen-well-short-its-target-time-shinzo-abe-rethink-not
活断層の上の原子炉、その廃炉は確実に実行しなければならない
ガブリエル・ドミンゲス / ドイチェ・べレ(ドイツ国際放送) 6月26日
質問 : 新福島第一原発の事故から2年以上が経過した日本で、核監視機関が原子力発電所の運用に関する新たな基準を承認しました。
原子力発電の専門家であるマイケル・マクア氏はこの新しい基準が、現在停止中の日本国内の原子力発電所の再稼働にどのように関わってくる可能性があるか、説明してくれました。
質問 : 報道によれば、今回初めて日本の原子力規制委員会が定めた安全基準は、日本の原子力発電所が過酷事故に見舞われた際、放射能漏れを起こさないよう徹底した対策を取るよう規定しています。
これまではこうした対策は、原子力発電所側の自主的に行ってきただけでした。
新しい安全基準が規定するのは、いったいどんなことでしょうか?
マイケル・マクア
「とりあえず細部について詳しく検証する前に、全体的に見た場合、2つの点が強調されていると言えるでしょう。
まずは子力発電所の設計上の問題、特に津波や地震と津波といった外部からもたらされる脅威に対処する能力の見直しです。
2番目に重要なのは、いわゆる過酷事故が発生した現場における事故対応において、使われる技術を一新することを求めている点です。
例えば水素爆発を防止するためには、どのような技術を組み合わせて対応するのか、あるいは炉心がメルトダウンを起こした際、原子炉内の圧力をどのような技術を使って下げるのか、外部に対する放射能漏れを最小限にするためのフィルター付きベント装置の配置はどうすれば良いかなど、技術的にかなり踏み込んでいる点です。」
質問 : 原子力発電力規制委員会は、福島第一原発でメルトダウンにつながった原因解明と向かい合っているでしょうか?
マイケル・マクア
「津波と地震と津波に対応するための安全対策の強化だけにとどまらず、日本の原子力規制委員会は福島第一原子力発電所の事故発生後、事態を悪化させてしまった要因についても充分に踏み込んだ考察を行っています。
しかしそうした考察が意味のあるものかどうかは、これから後の福島第一原発の事故対応の中で評価されなければなりません」。
質問 : 事故を起こしている福島第一原発の敷地内にある井戸水が、放射性物質であるストロンチウム-90に高濃度に汚染されていることが解りました。
どんな危険が考えられるでしょうか?
「ストロンチウム-90が飲み水や食べ物を通して体内に入った場合、人間の健康を損なう可能性があります。いったん体内に入った場合、骨のガンや白血病を引き起こす可能性があります。
ストロンチウム-90については、環境中の放射線量を測定することも大事ですが、併せて人間の体内に入る可能性が無いかどうか、検証することも大切です。
現在確認できる限りでは、福島第一原発の敷地内とその周辺の地下水は飲料水としては利用されていないので、人間の口に入る可能性は極めて低いでしょう。
しかしもっと広域のエリアで、地下水が飲料水としては利用されていないという事を確認する必要があります。
そしてこれらの地下水のうち、どれだけの量が海にまで流れ込んでいるか確認できない以上、この海域の魚介類を食べることにより、ストロンチウム-90を体内に摂取してしまう可能性は否定できません。」
質問 : 日本に50基ある稼働可能な原子炉は、2011年3月、福島第一原発の事故により3基の原子炉がメルトダウンを起こし、大量の放射性物質を環境中に放出して以降、安全点検のため停止したままそのほとんどが稼働していません。
福島第一原発の事故以前、日本では国内のエネルギー需要の何割を原子力発電が担っていたのですか?
世界原子力発電協会の統計によれば、福島第一原発の事故が発生する以前の数年間、日本では電力需要の約30%を原子力発電によって賄っていました。
それが事故の翌年、2012年にはわずか2%にまで低下しました。
質問 : 安倍晋三首相率いる自民党政権は、国内の原子炉の再稼働政策を推進しています。新しい原子力規制委員会の安全基準は7月8日から適用されることになっています。新たな安全基準の適用は、日本国内の原子炉の再稼働への道を開くことになるのですか?
マイケル・マクア
「私たちは、原子力発電所が再稼働を許可されるのは、新たな安全基準に基づく対策が実施されたことが証明された場合に限る、そう考えています。
しかし新基準の下で、その原子力発電所の直下に活断層があると判断された場合には、その原子炉は必ず廃炉にしなければなりません。
いくつかの原子力発電所で、活断層の調査が現在進行しています。」
*マイケル・マクア氏は、ドイツGRSの発電技術部門の責任者です。
GRSは原子力発電所の安全管理、そして放射性核廃棄物処理問題を専門的に扱う機関です。
http://www.dw.de/tougher-rules-for-japanese-nuclear-plants/a-16902751