ホーム » エッセイ » テロ、そして戦争 : 史上最大の隠ぺい《4》
世界を代表するメディアを自認するなら、民主主義の成り立ちや一国の政治を変えるほどの事実を報道するかどうかは極めて重要な問題であったはず
手が込んでいるにも関わらず、肝心な点がずさんだったCIAの対イラン工作
デモクラシー・ナウ 2018年1月5日
エイミー・グッドマン:
紆余曲折の末、ニューヨークタイムズに掲載されたブッシュ政権の大規模盗聴疑惑に関する記事であなたとエリック・リッチブラウ記者がピュリッツァー賞を受賞したのですね?
ジェイムズ・ライゼン:
そう、その通りです。私たちはさらなる追跡記事を書こうとしていました。
エイミー・グッドマン:
そして当然ながらニューヨークタイムズ社もピュリッツァー賞を受賞したのですね?
ジェイムズ・ライゼン:
そう、そう、でもそのことで自分は非常に割り切れない気分にさせられました。
私はこの記事を書いたおかげでニューヨークタイムズ社内における不服従分子だと思われたのですが、同じ記事で私も会社もピュリッツァー賞を受賞したわけです。
同じ理由でまず社内で戦うことを強いられ、次は外部から賞賛を具体的な形で受け取るというこれまでにない経験をすることになったのです。
エイミー・グッドマン:
ここにピュリッツァー賞選定委員会のコメントがあります。
「慎重で懸命な情報源を確保したことにより、秘密裡に行われた国内での盗聴疑惑を明らかにしたことにより、大規模なテロの防止と市民の基本的人権のどちらを優先すべきかという課題について、幅広い議論を喚起した。」
ピュリッツァー賞をしたことで当然ニューヨークタイムズ社もあなたと一緒に祝杯をあげたことと思いますが、彼らはあなたを祝福してくれましたか?後で謝罪などはありましたか?
ジェイムズ・ライゼン:
いいえ、謝罪はありませんでした。
祝杯をあげただけです。
この記事を書いたことで自分は随分奇妙な運命に見舞われたな、というのが正直な感想でした。
ほんの数ヶ月前までは、記事が公表される前に本が先に出版されることになったら私はニューヨークタイムズから解雇されるのではないかと危惧していました。
それが今や祝福される立場に変わったのです。
「この瞬間は、私の人生の中で最もやりきれない時間かもしれない。」
私はそう感じていましたが、口には出さないことにしました。
私はニューヨークタイムズ社主のサルツベルガーと編集主幹のケラーに言われた言葉を思い出していました。
「君がこの記事を書いたことで、我々がどれほどの面倒に巻き込まれてしまったことか…」
少なくとも私はその時点では、この記事に関してそれ以上何か交渉をするつもりはありませんでした。
エイミー・グッドマン:
謝罪と言えば当然、それはあなたに対してだけでなく、アメリカ国民に対しても謝罪が行われるべきものでした。
なぜなら『世界的新聞社』としての価値を自認するのであれば、民主主義社会の成り立ちや一国の政治を変えるほどの事実を報道するかどうかは極めて重要な問題であったはずです。
ジェイムズ・ライゼン:
その通りです。
エイミー・グッドマン:
さてニューヨークタイムズ社が記事の公開を押さえ込んでいたというのとは別の問題、もしこの情報源を明らかにしなければ刑務所行きだと脅された問題についてお聞きしたいと思います。
ブッシュ政権下でこうした脅威にさらされていたあなたは、オバマ政権になればすべてが変わると考えておられたようですが、事実は逆でした。脅威は大きくなってしまいました。
さてここにお迎えしているのは、ピューリツァー賞を2度受賞したジャーナリストであり、ベストセラー作家であり、現在はインターセプトの国家安全保障問題を担当する特派員を勤めるジェイムズ・ライゼン氏をお迎えしています。
ジェイムズ・ライゼン氏はそれ以前はニューヨークタイムズで働いていました。
さてジム、これまでブッシュ政権が国家ぐるみで行った盗聴工作に関するお話をうかがってきましたが、もうひとつの国家的陰謀についてお話をいただいてよろしいですか。
ニューヨークタイムズ紙が最終的に公表しないことを決定したイランに関わる問題です。
この件であなたには刑務所で一生を終わる危険が生じたのですね?
ジェームズ・ライゼン:
そうです。私は2003年CIAがイランの核開発計画に影響を与えようとする極めてずさんな計画を実行したという証拠を手に入れました。
CIAは政権内部の離反者のひとりからロシアの科学者が作成した設計図を入手し、これにアメリカの科学者が計画が失敗するように誤ったデータを書き込み、これを再び元の場所に戻すというものでした。
ジェームズ・ライゼン:
そうです。私は2003年CIAがイランの核開発計画を妨害するため極めてずさんな計画を実行したという証拠を手に入れました。
CIAは政権内部の離反者のひとりからロシアの科学者が作成した設計図を入手し、これにアメリカの科学者が計画が失敗するように誤ったデータを書き込み、これを基に製作すれば必ず失敗するというものでした。
そしてここにもう一人別のロシア人科学者が登場します。
彼は金欲しさにロシアの機密情報を密かにイラン側に売り渡す科学者を演じることになっていました。
しかし問題がありました。
この密かにアメリカに協力することになっていたロシア人科学者は偽の情報が書き込まれた設計図を見て、CIAに次のように指摘しました。
「これでは誰が見ても一目で偽物だと解ってしまう。」
しかしCIAはあくまで計画の実行にこだわりました、用意した『設計図』の欠陥が明らかであったにも関わらず…。
ロシア人科学者はこの設計図がウィーンの和平会議の席上イラン側の手に入る際、一通の手紙を添えたのです。
「この設計図には問題があるかもしれない。」
お解りですか、ロシア人科学者はイラン側が自分に疑いの目を向けないように、渡した設計図には欠陥があるという見解を添えたのです。
CIAがこの時行った工作全体の中で、結局この点が最大のポイントになりました。
イラン側の科学者たちがこの設計図をどう扱ったのか正確なところは知りようがありませんが、あらかじめ密かに欠陥があるということを知らされていた以上、からはそれを容易に判別し、偽の情報を除外して使える部分だけを利用したということは十分に考えられます。
どのような工作であれ、これではうまくいくはずがないのは自明のことです。
《5》に続く
https://www.democracynow.org/2018/1/5/the_biggest_secret_james_risen_on
+ – + – + – + – + – + – + – + – + – + – + – + – +