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アルジェリア人質殺害事件の背景にあるもの[アルジャジーラの分析記事2題]

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所要時間 約 20分

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【 アルジェリア人質事件の背景を探る 】
アルジャジーラはアルジェリア政府がなぜ国際社会と事前に打ち合わせることなく強攻策をとったのか、その検証を行いました。

アルジャジーラ 1月21日

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動画(25分番組)へのリンク : http://aje.me/10y40tK

アルジェリアの人質事件は、流血の惨事に終わりました。

19日土曜日、アルジェリア東部のイナメナスのガス・プラントに突入した部隊は4日間に渡る人質監禁事件に終止符を打ち、現在はプラント内に爆発物が残されていないか捜索を行っています。
アルジェリア政府は襲撃者側32人と人質23人の死亡を確認しましたが、今後犠牲者の数が増える可能性があると語っています。

今、砂漠の中にポツンとあるこの施設に、襲撃者たちがこうも易々と入り込めたことについて、世界中から疑問の声が上がっています。

1月16日、重装備の襲撃者たちがサハラ砂漠にあるイナメナスガス油田の労働者を乗せた2台のバスを襲いました。
約40人の武装した襲撃者は何百人ものアルジェリア人と外国人居住者の人質を確保し、
フランスに対し隣国マリでの軍事作戦を止めるよう要求しました。

この時点で、襲撃を行ったのはアルカイダから分かれた『血盟部隊』のメンバーであると見られていました。
発生から24時間経たないうちに襲撃側が人質を連れ去ろうという動きを見せたため、アルジェリア軍はプラントを奪還するための最初の行動を開始しました。

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西側の指導者たちは、事前の相談もなくアルジェリア政府が強硬策に出たことに怒りを露わにしました。この時点で人質2名の死亡し、他は逃亡したと伝えられていました。

1月18日、多くの人質の安否が不明な中、緊張したにらみ合いが続きました。
続く19日土曜日、アルジェリア特殊部隊がガス・プラントに突入し、容赦ない攻撃を行いました。

この攻撃の間、685人のアルジェリアの労働者と107人の外国人が解放されましたが、7人の人質が襲撃者側によって殺害されてしまいました。

事件発生が明らかになった16日水曜日、アルジェリアのモハメド通信情報技術相は、武装組織との取引には一切応じないと明言していました。
「我々はこれまでも、現在も、そしてこれからも、テロリストの顔を持つ相手との交渉に応じることはしませんし、脅迫に屈したり、逆に猶予を与えることもありません。
我々がテロリストとの交渉に応じることなどありえません。」

アルジェリアのダフ・ウールド・カリバ内務大臣は、「差し迫る極めて危険な状況を回避するため、最良の選択を行ったまでだ。テロリストは人質を連行して国外に脱出しようとしており、その際に施設を爆破しようとしていたことは明らかだった。」と述べました。

アルジェリア政府が国際社会とともに状況を検討する事無く、いち早く強攻策に出たことについて、内部情報が必要です。

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この問題について検討するため、アルジャジーラの司会者シウリー・ゴーシュは外部の有識者の見解を求めました。
石油問題を専門にする国際経済学者で、世界銀行でエネルギー問題のコンサルタントを務めるマムドゥ・サラメー氏、国際危機グループ(ICC)の北アフリカ・プロジェクトの責任者であるビル・ローレンス氏、カタールのシンクタンクであるFFYKRAコンサルティング&リサーチの研究員で、フランス国際関係研究所の研究員も務めるシルヴェイン・トゥアティ氏です。

▽ 世界銀行顧問マムドゥ・サラメー
「政府は緊張が高まっている場所が無いかどうか、常に細心の注意を払う必要があります。特に今回襲撃されたような孤立した施設については、マリの反政府武装勢力に対する備えを万全にする必要があります。」

▽ 国際危機グループ北アフリカ問題担当ビル・ローレンス
「アルジェリア政府は警備を厳重にすること、そして人質事件に対しては力で押さえつける事だけが唯一の対策のように言っていますが、そのやり方はあまり賢明とは言えません。
もっと大切なことは安定した政治を行うこと、人々が安心して日常を送れるようにすること、その他、アルジェリアとその近隣諸国において、今回の事件のような問題の根本的な解決を図るためには、多くの課題があります。」

http://www.aljazeera.com/programmes/insidestory/2013/01/2013120132410755399.html
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今回のアルジェリアの拘束事件で、犠牲となられた方々には言葉もありません。

事件現場となった現地の事情について、その背景が解らず歯がゆい思いをされていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。
かく言う私もその一人で、何かわかればと思いアルジャジーラの記事を訳してみました。
なおアルジャジーラの別の記事( http://blogs.aljazeera.com/blog/africa/why-sorting-out-mali-remains-uphill-task )には、翻訳した記事中に出てくる各武装勢力の『一掃』を狙い、近隣アフリカ諸国と宗主国フランスが武力介入に踏み切ったことが解説されています。

フランス、西アフリカ連合軍の攻撃によりね完全に破壊されたイスラム勢力の軍事車両。1月22日。

フランス、西アフリカ連合軍の攻撃により、完全に破壊されたイスラム勢力の軍事車両。1月22日。


今回の事件の背景にあるのもやはり、アフリカ問題に共通する『部族間抗争』『貧困』、そして『イスラム勢力の台頭』の問題でした。
皆さんもご存じの通り、マリをはじめ、アルジェリア、ニジェール、セネガル、モーリタニア、チュニジアなど、マグレブ~西アフリカ諸国の多くが元フランスの植民地です。
部族社会しかなかったこの地に、どうやってフランスが『国境線』を引いたのか、そこまでの知識はありませんが、私はこの地に近代主義的概念の『国家』を作ったことが果たして正しかったのか、未だに疑問に思う事があります。

しかし一方では、ユーゴスラビア崩壊が戦争と言うよりは凄惨な殺し合いに発展したように、何が何でも『民族自決』が良い結果につながるという訳でもありません。

しかし、貧困と極端な排外主義、この二つだけは人類を不幸にする元凶である、そう考えて間違いないように思います。
ここ日本では平和な国に暮らしていながら、韓国や中国の人々に対してことさらに敵意を煽るようなツイートを多数見かけます。
その精神は21世紀先進社会をより快適なものにするのに、ふさわしいものなのでしょうか?

ちなみに中国で過激な反日行動を行っている集団については、教養が無く、自分の中に誇るべきものを持たない人間の集まり、そういう見方が中国国内にあるようです。

「日本も中国も互いに長所を認め合い、協力できるところは協力をして、互いに豊かな社会を築けば良いのではありませんか。」
日本国籍を取得し、現在は選ばれてアメリカのヒューストンで研究生活をしている中国人の友人の言葉です。

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【 マリの武装グループについて理解する 】
部族間の争いに、イスラム教の『聖戦』が絡み合う

メイ・イン・ウェルシュ / アルジャジーラ 1月17日

武力によりマリ北部の支配権を握ったイスラム教勢力

武力によりマリ北部の支配権を握ったイスラム教勢力


今回の事件の発生を受け、再びアルカイダに注目が集まっていますが、マリの各地の武装勢力と現地人の戦闘員たちは、各種の不安定要因が複雑に絡み合った中から生まれてきたものなのです。

フランスは自らがアルカイダの一派とみなしている相手に向かって、空爆を行っていたつもりでした。
しかし実際にはフランスは宗教的戦士、民族自決を目指すグループ、そして金銭・利権を追い求める集団までがひしめき合う、社会的混乱でいっぱいの場所に空爆を行っていたのです。

政情不安が続く北部の数週間にわたる取材を終え、ウェルシュ記者はマリ国内のいくつかの武装グループに接触し、彼らが目的とするところを探っています。

▽ MNLA(アザワド解放国民運動)

宗教とは無関係に、アザワドと呼ばれている、マリ北部で暮らすトワレグ語を話す部族はマリからの独立運動を展開しています。
MNLAは2012年、アザワドの独立を一方的に宣言しましたが、マリの北半分にトワレグ、ソンガイ族、アラブ族、そしてフラニ族による独立国家の建設を目指しています。
彼らの中には形ばかりソンガイ族のメンバーも含まれますが、99%はトワレグ族の人々で、実際に目指すものはトワレグ語国家の樹立なのです。

MNLAのリーダーはイフォガス・トワレグ族出身のビラル・アグ・シェリフ、ナンバー2はソンガイ族のマハマドゥ・ジェリ・マイガです。
かつてはガオとキダルの2都市を実質的に支配していましたが、イスラム教勢力の台頭の前に支配力を失い、再起を狙わざるを得なくなりました。
代わって勢力を拡大してきたのがアルカイダに関連するグループで、西側社会の理解と分析においてMNLAの存在は無視されるか、過小評価されています。
しかし、今回の危機の根本の原因が、MNLAがマリ北部における支配権を確立しようとしたことがきっかけであったことは重要な要素であり、アルジェリアで起きた事件もまた、その揺り返しのひとつであるということが出来るのです。

MNLAの活動の起源は1963年のトワレグ族の反乱にまでさかのぼる、根の深いものであり、容易に鎮静化する性質のものではありません。
したがって、この後もマリ北部の不安定要因として影響を与え続けるでしょう。

整列するアザワド解放国民運動の兵士たち

整列するアザワド解放国民運動の兵士たち


▽ FLNA(アザワド解放国民戦線)

北部マリの自決権を求めるアラブ人のグループで、MNLAとも同盟関係にあります。
南スーダンが国民投票によってスーダンから独立したのと同様の手段により、北部がマリの自決権を持つ一州として残るのか、完全独立を果たすのか決めることを目指しています。
アラブ人が中心ですが、イスラム教による支配は望んでいません。

▽ ガンダ・コイ(地球の達人という意味)

ガンダ・コイはトワレグ族の独立運動が再燃した1990年代にその存在が知られるようになった、ソンガイ族の自警武装グループです。
かつてはマリの政府軍と同盟し、トワレグ族と戦った経験があります。
トワレグ族の一般市民に対する虐殺を行った疑いを持たれています。

ヒューマン・ライツ・ウオッチ(人権監視機構)はガンダ・コイ、ガンダ・イゾなどの民兵組織が、対立するMNLAやアンサール・アル・ディンなどの要人とその協力者の暗殺リストを作成しているとの警告を発しました。
暗殺リストに載っている人のほとんどは、トワレグ族とアラブ族であると見られています。

▽ ガンダ・イゾ(地球の達人という意味)

ガンダ・イゾはガンダ・コイ同様2008年に民族自警組織として誕生し、トワレグ語族への攻撃を行ったことがある、フラニ族の民兵組織です。
現在では部族組織以上の集団に成長し、モプティには自前の訓練キャンプを持っています。

▽イスラム教マグレブ諸国のアルカイダ(AQIM)

AQIMはアルジェリア人とモーリタニア人のメンバーからなり、2003年以降はマリ北部に拠点を置いています。これまでヨーロッパ人、カナダ人を相手に50人以上の身代金目的の誘拐を行い、得た金額は1億ドル(約90億円)以上と見られています。

ニジェールのモハメド・バズーム外相は最近、AQIMがマリ北部を拠点にしているのは、追放されたマリのアマドウ・トゥーマニ・トゥーレ元大統領とその側近イヤド・アグ・ガリとの取引によるものだと語りました。
誘拐によってヨーロッパ各国政府から得た身代金は、マリ政府の要人の中にばらまかれ、その結果AQIMはマリ政府軍の暗黙の了解の下、トワレグ族の勢力圏内で無制限の自由を与えられています。
AQIMは現在、少なくとも9人のヨーロッパ人の人質を捕えたままにしています。

この10年でイフォガス・トワレグ、アラブの各部族からもメンバーが加わり、部族が異なる同士の結婚も行われました。
さらにAQIMはマリ北部の大都市では姿を隠す必要も無く、アンサール・アル・ディンなどの他の組織の協力もあり、マリ国内で主流となる勢力を築きつつあります。
現在ではマリの南部やニジェール、セネガル、その他の国々からやって来た若年層が、AQIMが実権を持つ『イスラム教警察』の名の下に、メンバーとして続々参加しています。

AQIMの最高指導者はアルジェリア人のアブドル・マレク・ドゥクデル・アカ・アブ・ムサブ・アブデル・ワドゥード、別名『サハラの支配者ヤヒア・アブ・ハマム』です。
彼は片目のアルジェリア人商人モハタール・ベルモハタールやハミド・アル・ザイードが率いる武装集団サハラ旅団の幹部でもあります。
サハラ旅団の権力機構については、未だ未解明です。

4.	貧困にあえぐアフリカ人からなおも搾取を続けるフランスを批判するAQIMの最高指導者『サハラの支配者ヤヒア・アブ・ハマム』

4. 貧困にあえぐアフリカ人からなおも搾取を続けるフランスを批判するAQIMの最高指導者『サハラの支配者ヤヒア・アブ・ハマム』


▽ アンサール・アル・ディン

イフォガス・トワレグ、ベラビチェ・アラブ族の中で、イスラム法による国家支配をマリ全土で行うイスラム教国家樹立を目指す地方勢力です。
アンサール・アル・ディンを設立し、指導者の地位にいるのは、1990年台にトワレグ族による反乱を率いたイヤド・アグ・ガリです。

イヤドはトワレグ族による反乱が内戦に発展しないよう、追放された元大統領と緊密な連携を保ちながら、10年以上活動を続けてきました。
またAQIMとの間の、人質の身代金に関する交渉を担当してきました。

サンダ・ウルド・ブマナという名のアンサール・アル・ディンのスポークスマンは、かつてアルカイダのメンバーの嫌疑を受け、2005年にモーリタニアで拘束された経験を持つ、ティンブクトゥ出身のアラブ人です。
アンサール・アル・ディンの兵士の大部分はイヤド・アグ・ガリ同様、ティンブクトゥ地区のイフォガス・トワレグ、ベラビチェ・アラブ族です。

一方でアンサール・アル・ディンは、近隣同士の争いを避け、部族間の抗争を引き起こしてその活動を非合法化されないように、MNLAとFLNAとは争わないようにしています。
さらに最近では、MUJAOとAQIMとの協力関係を解消する方向に向かっています。

アンサール・アル・ディンはアルカイダとの関係について一切を否定していますが、実際にはアルカイダのイスラム・マグレブ諸国における活動の『傘』としての役割を担っています。
アンサール・アル・ディンとアルカイダの関係は、アフガニスタンにおけるタリバンとアルカイダの関係に似ており、この場合はアンサール・アル・ディンがホスト役です。
例として、この2者が協力して宗教警察を運営している点を挙げることが出来ます。
アンサール・アル・ディンのメンバーはマリ人に限られますが、アルカイダとの関係はマリ国内では公然の秘密となっています。
アンサール・アル・ディンのメンバーはマリ北部の3大都市、ガオ、ティンブクトゥ、キダルのどこにでもいます。

マリ北部の紛争地帯の地図

マリ北部の紛争地帯の地図


▽ MUJAO(西アフリカ統一・聖戦運動)

MUJAOはマリ北部のアルカイダに関連する中で、最も正体がわかりにくい組織です。
AQIMから分離した反体制グループと思われますが、アルジャジーラの取材に対しては、ガオでAQIMとともに共通の敵と戦っていると、誇らしげに語りました。

MUJAOはアンサール・アル・ディン同様、この世界すべてがイスラムの教えの下に統一されることを目指しています。
アンサール・アル・ディンと異なる点はサヘル地区や北アフリカなど、国外出身のメンバーを受け入れている点です。

北部マリの独立を目指すMNLAの各組織や、アラブ人のグループを攻撃することに最も熱心だったのがこのMUJAOでした。

MNLAがいったんはマリ北部で足場を築いた際、体制が崩壊するまで攻撃を続けたことでも知られています。

一説では、ガオ地区の麻薬王と呼ばれるティレムシ・アラブが設立したとされており、実際にその傘下の若者たちがMUJAOのメンバーになっています。

フランスに対する警告ビデオを作製したアブドゥル・ジャリ。ティブクトゥ市内。(下の写真 : 以下同)
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アルカイダとの関係について否定する、アンサール・アル・ディンのスポークスマン、サンダ・ウルド・ブマナ。
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ティンブクトゥには、マリ政府の支配は及ばず、代わってアンサール・アル・ディンがAQIMとともにイスラム警察を運営し、『治安を守る』。
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とても18歳以上には見えないアンサール・アル・ディンの民兵。
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いったんは勢力を衰えさせたアザワド解放国民運動の兵士たち
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西アフリカ統一・聖戦運動の兵士。
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かつてはマリ政府のために働き、現在は西アフリカ統一・聖戦運動のメンバーになった兵士たち。
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西アフリカ統一・聖戦運動はかつて、アルジェリアの領事と6名の外交官を誘拐したこともある。
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http://www.aljazeera.com/indepth/features/2013/01/20131139522812326.html

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