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ペンタゴン内に潜む兵器級核物質追跡・解析巨大コンピューターシステム、コンステレーション
世界に張り巡らされた闇の核兵器開発ネットワーク、アクセスしているのは?
秘密裏に核兵器開発を進めようとしている国家、その隠匿手口とは…
エコノミスト 9月15日
ネットワークの分析には限界があります。
大勢の人間の中からテロリストを識別するソフトウェアを応用し、秘密の核兵器開発計画を暴き出すことは困難です。
核兵器の拡散には多くの場合テロリストが関わっていますが、彼らの中からさらに核兵器の拡散に関わっている人物を特定できるようにソフトウェアの機能を拡張するためのデータはほとんどありません。
さらなる問題として、闇の世界のネットワーク同士がどうつながっているか天文学的なパターンを計算するのはコンピュータといえど大きな負担になります。
これまで核兵器開発には関係が無いと思っていた金属材料や化学物質に、核兵器製造の材料として使える可能性があるという新たな可能性が明らかになると、問題は一層複雑になります。
疑惑を持たれている国々は、ネットワークとの接触機会を減らすことにより意図を隠すことができます。
核兵器開発疑惑の中心にいる国のひとつ、北朝鮮では遠心分離施設の存在を秘密にしておくため、核燃料その他は闇市場で手に入れ、必要な部品などは国内で製造しました。
イランは核兵器開発技術を自国に根付かせようとしています。
そのためにネットワークの分析だけではイランの核開発計画の中身をつかめなくなってきている、こう語るのは、オレゴン州ポートランドのリード・カレッジの政治科学者、アレキサンダー・モンゴメリー氏です。
同氏によればイランはウラン燃料を自国内で採掘し、通常遠心分離機を製造する場合に必要とされる特別なマレージング鋼を輸入する代わり、炭素繊維でローターを制作生産したのです。
こうした問題すべてをからめとる上で、巨大コンピューターシステムが効果を発揮すると語るのは、アメリカ国防総省脅威縮小諮問委員会の副委員長ミリアム・ジョン博士です。
それこそが現在、アメリカ国防総省(ペンタゴン)が『コンステレーション(星座)』と呼ばれている巨大システムを構築している理由なのです。
ジョン博士はコンステレーションについて、あらゆるデータを総合・分析する「統合エンジン」だと語ります。
たとえばコンピュータは、数年間に撮影された衛星写真と赤外線写真をすべて調べ上げ、核関連施設が建設、あるいは変更された場所を特定することが可能です。
コンステレーションが目指すのは無数の調査結果をつなぎ合わせ、一連の有益な情報としてまとめ上げることです。
例えば大学で原子力工学を教えていたはずの複数の核科学者たちが、引退する年齢でもないのに教育現場から姿を消し、核兵器開発の疑いがある施設の通勤圏内に居を移した場合など、調査対象として浮上するのです。
それでもこれまで実際的効果を発揮してきたのは、地球を周回している探査衛星による写真撮影と温度検知でした。
衛星の軌道が低ければ低い程、多くの事を明らかにすることができます。
北朝鮮の技術援助を得て、シリアが外見通常と変わらないものの、床面を思い切り下げた建物を建造し、秘密裏に原子炉を製造しようとしたことがありました。
外側から見る限り、その屋根の高さから原子炉を収納することなどは不可能と思われました。
原子炉に必要不可欠な冷却塔については、川の近くの貯水池まで地下を水道管でつなぎ代用させました。
この時原子炉の存在を突き止めたのは衛星探査ではなく、人間による諜報活動だった、こう語るのは元国家安全保障会議のメンバーであったトービー博士です。
結局この施設は2007年の完成直前、進入してきたイスラエルの戦闘爆撃機により爆破されました。
オーストラリアの専門家であるカールソン氏は、特殊なセンサーの開発により、宇宙からでもフッ化水素酸やフッ素の漏出を突き止めることがこの10年で可能になったと語りました。
しかし放射線の漏出によってウラン濃縮施設などの存在を突き止めるには別種のセンサーが必要であり、この場合はもっと調査対象に近づく必要があります。
カリフォルニア大学バークレー校の物理学者であるカイ・フェッター博士は、中性子、アルファ、ベータ、ガンマの各放射線の漏出程度は、そこにある放射性物質がどれだけのエネルギーを有しているかによって変化すると語りました。
高エネルギーの物質がすなわち核兵器の材料になります。
しかし兵器級のウランとプルトニウムであっても、現存する装置を使って空間線量を計測するやり方では、少なくとも対象物質の2、3メートル以内に近づかないと検知することは不可能です。
(従来型の爆薬を混ぜて製造される「放射能拡散兵器」に使用される放射性物質は、もっと離れた場所から検知することが可能です。)
また、銅によって核物質を密閉されてしまうと、発見はより困難になります。
ウィーンに本部を置くNPO団体で軍縮と核拡散防止対策を専門とするシンクタンクの責任者であるエレーナ・ソコーウァ氏は、これまで摘発された兵器級ウランあるいはプルトニウムを輸送途中で摘発したこれまでの20以上のケースでは、探知器の警報によって発見された例は2、3に留まらないと語りました。
-《4》へ続く –
http://www.economist.com/news/technology-quarterly/21662652-clandestine-weapons-new-ways-detect-covert-nuclear-weapons-are-being-developed?zid=306&ah=1b164dbd43b0cb27ba0d4c3b12a5e227