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【 イスラム国人質事件 – シリアの地で運命がつながった、人間としては全く異質な2人】《前篇》

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所要時間 約 11分

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「何が起きても、責任はすべて私にある。シリアの人々を責めてはいけない」後藤氏
「優しさを燃え上がらせる事によって自分が火傷してしまう、そんな類いの人間なのです」後藤氏の母

マーティン・ファクラー / ニューヨークタイムズ 1月25日

人質事件被害者父親
【 イスラム国人質事件 - シリアの地で運命がつながった、人間としては全く異質な2人】《前篇》
「何が起きても、責任はすべて私にある。シリアの人々を責めてはいけない」後藤氏
「優しさを燃え上がらせる事によって自分が火傷してしまう、そんな類いの人間なのです」後藤氏の母

マーティン・ファクラー / ニューヨークタイムズ 1月25日

イスラム国の戦闘員の前に跪くことを強いられている2人の人質男性は、テレビから流れる映像を見つめる人々の目には密接にかかわり合う人間同士に映りました。
2人は命と引き換えに賠償金を要求する覆面をした戦闘員の両隣にオレンジ色の長着を着せられて跪き、厳しい表情でビデオの画面に映っていました。

そして週末にかけ、2人の男性の運命はより一層密接に結ばれることになったのです。
男性のうちのひとりが首が切断された別の男性の遺体を写した写真を両手に捧げ持つ画像が公開され、イスラム国のアル・バヤン・ラジオ局は男性1人を殺害したと伝えたのです。
イスラム国と連携するラジオ局1社も、25日日曜日午後遅くに男性が殺害されたことを確認しました。

ともに拘禁されるという事態に至ったシリアにおける道のりは、2人の男性それぞれにおいて結果的にはそれ程異なってはいませんでした。

GAZA 1

生き残った方の人質、47歳の後藤健二氏は20年以上紛争地域にこだわりを持ち、その取材を続けているフリーランスのテレビカメラマンであり、すでに5冊の著作を持つ、尊敬を集めているジャーナリストです。
彼は弱い立場の人々、特に難民にされてしまった子供たちが置かれている窮状に心を痛め、その姿を世界に伝えるという使命感に燃え、何にも増してイラクとシリアに引きつけられ、その存在を知られるようになりました。

一方の42歳の湯川遥菜氏は破産、そして妻の死という人生において衝撃的な出来事が重なった挙句、2008年には自殺を試みた、心のよりどころを失ってしまった人物でした。
湯川氏は自らが第二次世界大戦時の有名な女性スパイの生まれ変わりであると確信し、人生の再出発のきっかけを求めてシリアに入っていったのです。

ブログの中で湯川氏は、タリバンやアルカイダに対し充分な実戦経験を積んだ後で、危険な紛争地区で活動する日本企業の安全保障アドバイザーの地位に就くことを夢見ていました。
代わりに今回彼は、取り返しのつかない深みにはまりこんでしまいました。

湯川氏がイスラム国に拘束されたのは昨年8月と見られますが、その直前別のシリア反乱軍が短期間彼を拘留していました。
そしてこの2人の日本人男性は身代金を要求するビデオに並んで映し出される直前、ありうべからざる再会を果たすことになったのです。

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実際のところ、ブログから想像される2人の男性の人間像、そして双方の友人や家族の話を総合すると、見えてくるのは次のような情景です。
経験豊かなジャーナリストが、運に見放された上におそらくは見当違いの方向に進もうとしていた湯川氏を見て、責任を感じ、何とか面倒を見ようとしていたと思われます。
湯川氏がシリアとイラクの領土を広範囲に制圧しているイスラム国に拘束されたことを知った後藤氏は、何とか彼を連れ戻そうと、極めて危険な場所に踏み込んで行ったのです。

そして後藤氏の救出作戦を不運が見舞い、昨年10月、彼もまたイスラム国に拘束されたのです。

23日金曜日、後藤氏の母親の石堂順子さん(78歳)は、湯川さんとの関連について次のように語りました。
「彼は可能な限りの手立てを尽くして、先に拘束された知人を救いだすため、現地に飛んで行ってしまいました。」
石堂さんは後藤氏が今回のような危険を冒した理由について、常に弱い者に優しく接しようと努めていたからに他ならないことを次のように説明しました。

人実事件02
「私の息子は立って歩けるようになる以前から、自分よりも年下の弱い立場の子供たちに、常に優しく接しようとしていました。」
「彼は優しい子供でした。でもその優しさを燃え上がらせる事によって自分が火傷してしまう、そんな類いの人間なのです。」

シリア国内の武装勢力の支配下にある地域に入り込むことついて、後藤氏は自身の最後の動画においてその危険性を十分認識していたことがうかがわれます。

カメラをまっすぐ見つめながら、後藤氏はこの先何が起きても、シリアの人びとを批判して欲しくは無いと語りました。
「今回の旅はきわめて危険です。」
後藤さんはまず母国語である日本語で、次に英語でこのように続けました。
「もし何かが起れば、責任はすべて私にあります。」

〈 後篇に続く 〉


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後藤さんは救出に行った、その湯川さんをいわば眼前で殺害され、さぞ無念の想いを募らせておられると思います。
しかし解放され、再びジャーナリストとして活躍されるようになれば、今回の経験も踏まえ何層倍ものスケールで仕事をされるようになるのではないでしょうか?
そのことを願い、そして何より無事で帰還されるよう願い、微力ではあっても何か自分も出来ることがあれば、そのことを願っています。

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【 内戦という名の戦争、難民キャンプ、そしてずたずたにされた子供たちの心 】〈1〉

アメリカNBCニュース 3月11日
(再掲載・写真をクリックして大きな画像をご覧ください)

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レバノンのベカー渓谷では約5,000人の国外脱出をしたシリア難民が、フェイダ・キャンプと呼ばれる場所で生活しています。
AP通信のニュース・カメラマン、ジェローム・ディレイとNBC放送の番組制作者である立花由香が2日間キャンプを訪問し、まだ成年に達していない戦争の生存者がどんな生活を強いられているか、取材と写真撮影を行いました。

13歳のアリは家族で車に乗って移動していた時、突然銃撃を受けました。
銃弾はアリの掌を貫通し、隣にいた弟モハメドの頭に命中してしまいました。
モハメドはそのままアリの腕の中で息を引き取りました。
その一か月後、アリの家族は国境を越えシリアを逃れ、レバノンにやって来ました。
兄弟の母ハタラは、モハメドの死以来子供の様子が変わってしまったと語ります。
アリはまだ手に痛みが残っていますが、事件そのものの記憶はあいまいです。
母によれば事件以来アリは突然異常に興奮することが多くなり、自律的行動をすることが難しくなったと語ります。
しかしアリは現在、家族にとってたった一人の稼ぎ手です。
彼は毎日1時間歩いて通勤し、自動車整備工として週に6日間働いています。
「神が一つだけ願いをかなえてくれるなら、平和になった故国に帰りたいと願うつもりです。」
(写真上)

14歳のノファはアリの姉です。
末の弟が銃撃によって死亡したことに衝撃を受けた彼女は、一刻も早く家から出たいと考えました。
そして従弟と結婚しましたが、結婚生活は長続きせず、結局もとの家族のもとに戻ってきました。
彼女は現在学校に行くことなく、母親と一緒に年下の兄弟姉妹の世話に明け暮れています。
「シリアで内戦が始まる以前、私は学校が好きでした。わたしの成績はクラスでトップでした。」
ノファがこう語りました。
「得意科目はアラビア文学でした。」
(写真下・以下同じ)
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2年前に家族と一緒にシリアのイドリブから逃れてきた5歳のガマルがフェィダ・キャンプの中を歩いていました。
当時イドリブでは頻繁な砲撃や爆撃にさらされ、近くで爆音がする度ガマルは泣き声をあげていました。
避難後の今も夜中に泣き叫ぶことがあります。
父親のカリドがガマルのこれからの人生に望むことは、平和で落ち着いた生活だけだと語りました。
syr 3
母親と一緒に暮らしている難民キャンプのテントの中で、兄弟姉妹と一緒にベッドに座る12歳の少女ファティマ。
4ヵ月前、家族のために食糧を捜していた父親が姿を消した後、ファティマと家族はシリアのホムスを逃れてこの場所にやってきました。
「私はいつも父の事を考えています。父は私たち家族が幸せでいられるよう、絶えず気を配っていました。食べ物を探し、家族全員が無事でいられるようにしてくれていました。神さまがひとつだけ願いをかなえてくれるなら、父を返してほしい、それだけです。」
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7歳のシドラ(真ん中の少女)が難民キャンプのテントの前に立っています。
家族が就寝中に自宅近くで爆発が起きた2週間後、シドラの両親は3歳の妹のジーナとシドラを連れてダマスカス郊外からレバノンに逃れてきました。
「そのとき私のおじさんが3人、そしていつも一緒に遊んでいた3人のいとこも死んでしまったの。」
シドラがこう話しました。
そしてシドラの弟も3年前、銃撃で殺されていました。
「私はもうシリアには戻りたくないわ。私はこのキャンプいる方が安心できるから。」
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ほんとうの「今」を知りたくて、ニューヨークタイムズ、アメリカCNN、NBC、ガーディアン、ドイツ国際放送などのニュースを1日一本選んで翻訳・掲載しています。 趣味はゴルフ、絵を描くこと、クラシック音楽、Jazz、Rock&Pops、司馬遼太郎と山本周五郎と歴史書など。 @idonochawanという名前でツィートしてます。
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