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【 脅迫される村 】《前編》

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所要時間 約 8分

戦争犯罪の痕跡を残すことは許さない、執拗な要求と攻撃が繰り返された
長い間政治と経済の停滞が続いてきた日本、その中で成長した若者たちの不平不満が利用されている

マーティン・ファクラー / ニューヨークタイムズ 10月28日

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日本の北端、北海道の沿岸にあるこの村で、今は郵便局長を務める一人の男性が居合わせた事件に幕が引かれ、以来沈黙を守り続けてからすでに半世紀以上が経過しました。
固く口を閉ざしてきた村民が重い口を開き、ここで起きた悲惨な出来ごとについて重要な証言を行い、それを記録できるようになるまでに水口浩一氏はこの場所に何度も足を運びましたが、気がつけば数十年の歳月が過ぎていました。

第二次世界大戦中この場所に滑走路の建設を強行しようとした日本軍は、結局80人以上の韓国人労働者を虐待と栄養失調によって死に至らしめました。
水口さんたちは最終的に場所を突き止め、住民たちと一緒に約2メートルの高さの慰霊碑の建設を始めたのです。
この小さな村が戦争中の悲惨な事件の記録を保存しようとする取り組みは、10年前であれば完成まですんなりと行ったことでしょう。
しかし昨年後半、猿払村役場には村民を裏切り者呼ばわりする脅迫電話が執拗に、繰り返しかかって来ることになりました。
そしてインターネット上でネガティヴ・キャンペーンが組織化され、猿払村のホタテ貝の不買運動を求める者も現れました。
動揺した村長は慰霊碑の建設の中止を命じました。

これまでの日本において、軍国主義国家であった時代を再評価するなどということは容易に許されることではありませんでした。
日本は軍国主義国家が引き起こした数々の問題を努めて記憶の彼方に押しやり、平和主義国家の建設に邁進し、今日の繁栄を築き上げました。
しかし戦争中に日本が犯した罪についてはきちんと記録すべきであるとする水口さんのような人々に対し、事実を否定しネット上で脅迫を行う行為が最近になって増加しています。

『ネトウヨ』と総称される彼らはネット上の寄り集まりであり、人道上・人権上問題のある発言を繰り返したために厳しい批判を浴び、日本の政治社会において一度はその片隅に追いやられました。
しかし戦前戦中の日本についての否定的評価を肯定的なものに書き換えようとする右派・安倍政権の誕生ともに、再び活発に動き始めました。
そして政治の動向に無関心であるか、あるいは後のたたりを恐れて口をつぐみがちな日本の市民社会において、その言動はいやが上にも目立つようになりました。

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「私は脅迫に屈してしまったことについて、村長を責めるつもりはありません。」
手描きの地図でかつて飛行場建設が行われた場所に案内してくれた、もと建築家で79歳の水口さんがこう語りました。
「責められるべきは、将来日本が再び道を誤ることが無いよう真実の記録を残す取り組みを支援するため、声をあげようとしない日本の社会の方です。」

研究者は積極的な言動を行っているネット右翼の総数は2〜3千人を上回ることは無く、彼らの多くが定職を見つけることが出来ない、非正規雇用の労働者であると見ています。
過激な言動を繰り返す彼らは、長い間政治と経済の停滞が続いてきた日本の中で成長し、不満を募らせてきた若者たちに具体的なはけ口を与えることにより利益を得てきました。

彼らは第二次世界大戦の終結以降約70年間、日本側の戦争犯罪のみが言われ、アメリカによる広島・長崎への原爆投下など連合国側の戦争犯罪については一切触れられることが無いのは不公平であり、日本の威信を著しく傷つけるものだと主張しています。

「我々は、絶えず反省することを求められる日本には飽き飽きしています。」
猿払村の慰霊碑のようなものは日本の『自虐史観』を象徴するものだとして批判した、右派の若者たちに人気があるブロガーである26歳の京本和也氏がこう語りました。
京本氏は熱心さを通り越して脅迫行為までおこなっているのは、ほんの数名に過ぎないと語りました。

中国・韓国との領土問題の激化が京本氏などネット右翼への支持の源となっていると、一橋大学の阪口正二郎教授が語りました。
両国は20世紀前半、日本の軍国主義の犠牲者の立場にありましたが、21世紀初頭の今日、アジア地区において経済大国日本の地位を追い越し追いつこうとする位置にいます。
「ネット右翼は自分たち自身の地位の不安定さと、国家としての日本の将来の不安を重ね合わせているのです。」

ヘイトスピーチ04
2013年12月の自民党の地滑り的勝利以来、日本の左派系の政治家の活動は極めて精彩を欠き、権力機構にどのような影響力も発揮できない状態が続いています。
国粋主義的ウェブサイトを運営し、人種差別主義者とともに日本国内の韓国朝鮮系住民へのヘイトスピーチを繰り返す過激右翼の活動の活発化は、こうした状況と軌を一にしています。

安倍政権はネット右翼とは立場を異にすると宣言することが遅く、この点繰り返し批判されてきました。
9月には安倍政権の閣僚の一人である山谷えり子国家公安委員長と、ネット右翼最大のグループである在特会の幹部が並んで写っている写真の存在が明らかとなりましたが、政権はこの問題に触れようともしませんでした。

坂口教授や他の専門家は、かつての日本の政治家が反省や謝罪の態度を表明したことすら、今や国粋主義者や極右の攻撃の対象とされる、そうした政治文化の変化がこうした結果を生み出していると指摘しました。

米冒頭の写真 : 朝鮮人労働者の埋葬場所の傍らに立つ水口氏。

〈 後篇に続く 〉


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彼らに極端な排撃行動を行なわせているのは、最早自身の力では置かれている環境を変えようが無いという閉塞感でしょうか?
その閉塞状況を暴力によって打開したいという衝動でしょうか?
いずれにしてもユートピアが現実にはありえない以上、こうした人々はどの時代にも存在せざるを得ません。

ほんとうの悪は彼らを使嗾し、利用しようとする人間たちです。
火がついてしまっている彼らに、こう囁けばいいのです。
「君たちは国士だ、自分の利害より先に国の事を憂える立派な人間だ。」
そしてそれとなく目標、つまりは『敵』を指し示してやればいいのです。
卑劣さも極まれりと言うべきかもしれません。

 

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