ホーム » エッセイ » 【 北朝鮮は政治宣伝の道具、最大限に有効活用している安倍首相 】
北朝鮮対アメリカという問題を北朝鮮対日本にすり替え、軍備拡大・国民の基本的人権の制限という目的に利用する安倍首相
現実以上に北朝鮮の脅威について危機感を煽り、軍備拡大・基本的人権の制限の目的のため都合よく利用する安部首相
ジュリアン・ライオール / ドイチェ・ヴェレ 2017年9月20日
北朝鮮による最近の核実験と数度のミサイル発射は、日本の国民を緊張させています。
10月に予定されている選挙は、北朝鮮政府に対して強硬姿勢を貫くと明言する人物を巡る争いになるでしょう。
安倍晋三首相は25日、衆議院の解散総選挙を求める発表を行いますが、その背景にはいくつかの要因があります。
日本経済は着実に成長しており、国民生活は概ね充足していますが、問題は野党が対立軸を形成できるだけの政策を打ちだせないまま組織的に混乱し、議員の離脱や再編成によって弱体化してしまっている状況にあり、これらが安部首相を利する結果となっています。
今年前半に明らかになった一連のスキャンダルにより安倍政権への支持率は低下していましたが、ここに来て政権支持率が再び50%を超え、現在は安部首相が待ち望んでいた状況かもしれません。
それを実現させたもののひとつが、北朝鮮体制による度重なる軍事的挑発であり、それに対する安倍首相の好戦的ともとれる強硬な対応です。
安倍氏の外交問題に対するタカ派的な強硬姿勢は良く知られていますが、北朝鮮による核実験、ミサイル発射、日本国民の拉致などの問題に対し、安部首相の陣営は国際社会に対しても結束してこの問題に対処することを求め、そうした対応は国内的には支持獲得のための格好の材料として利用されています。
特にここ数か月、北朝鮮の兵器開発に携わる武器科学者たちが実証して見せた明らかな技術的進歩は、日本国民の心理状態をますます不安定なものにしています。
安倍死傷の支持率は2017年7月には約26%前後と低迷していましたが、今や安倍首相は1960年代以降最長を記録している1,728日の自民党政権の首相としての在任期間を更に延長させるために、日本の一般国民が抱いている恐怖心を利用することが可能になりました。
テンプル大学日本校のアジア研究部門の責任者であるジェフ・キングストン教授は、
「日本では対外的危機が発生する度、日の丸の旗のもとに結集しようという動きが繰り返されてきました。今回は北朝鮮がそのテーマなのです。」
ドイチェ・ヴェレの取材にこう答えました。
キングストン教授はつい最近北朝鮮が行なった、熱核反応を起こす弾頭によるものだったと見られる核実験と2回に渡る弾道ミサイル発射により、
「安部首相は長年日本の憲法の改定を宿願としてきましたが、有権者に対しそれも選択肢の一つだと思わせることが可能になって来たのです。」
安倍首相は今こそ、日本人が「紛争解決の手段として永遠に戦争を放棄する」こと、そして「陸・海・空、その他の戦力を保持しない」ことを規定している憲法第9条を改定する必要があると考え、それを明言しています。
他の保守派の人間たち同様、安部首相は現在の憲法の条文は第二次世界大戦(太平洋戦争)に敗北した日本が勝利者の連合国に強制されたものであり、現実の外交的環境に合わせたものに変更されるべきものだと考えています。
日本国憲法第9条については支持する国民が多数に上り、憲法の改定は政治的にハードルが高い問題ですが、キム・ジョンウン政権による脅威を理由に安倍首相が同じ論理を用いて攻勢を強めることは間違いないと見られています。
北朝鮮の脅威は現実
「北朝鮮の核実験とミサイル発射に関する圧倒的な量の国内報道により、日本の国民は北朝鮮の脅威は現実的なものであるという共通認識を強いものにしています。」
キングストン教授がこう語りました。
「日本の野党が対北朝鮮問題に関しては有効な対抗案を示せない現状を見て、自民党はことさら安全保障問題に固執しています。」
そして次のように語りました。
「北朝鮮のキム・ジョンウン総書記が、今度の安倍首相の選挙にめいっぱい追い風を送り込んでいると言っても良いでしょう。」
アナリストは、2人の友人知人が関わる別々の私立の教育機関の建設問題で、担当する文部科学省に政治的影響力を行使したという疑惑を振り払うため苦しんでいた7月下旬に支持率が26%にまで低下したことを考えると、安倍首相の支持率の回復はきわめて印象的だと指摘しています。
安部首相は自分の政治生命を守るために戦っているという指摘もありました。
東京の国際基督教大学国際関係学部のスティーブン・ナジー准教授は、安倍首相が
「北朝鮮というカードを非常に抜け目なく利用している」と考えています。
「安部首相は日本の国民に対し、北朝鮮問題を扱う上で強力なリーダーシップを発揮している姿を演じ、さらには米国との安全保障関係の効果を強調しているのです。」
ナジー准教授はこう語り、次のようにつけ加えました。
「こうした安部首相の動きに合わせるように、ドナルド・トランプは今週の国連総会の演説で、北朝鮮人による日本人拉致問題を取り上げました。
「これは日本人にとって非常に感情的な問題であり、このタイミングで取り上げたことで安部首相の支持率を上げるために効果的に作用することになるでしょう。」
http://www.dw.com/en/japans-abe-using-north-koreas-threats-to-boost-election-chances/a-40598152
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真に平等で自由な社会、戦争の無い民主的な社会の実現を願っている人なら、連日報じられている新党設立の動き、安部自民党が強調する北朝鮮の脅威の拡声器の役割を喜々として担っているNHKなどの国内報道に対し、モヤモヤが晴れない日が続いているのではないでしょうか?
これまでご紹介したガーディアンの掲載記事の中には、すでに核兵器保有国である北朝鮮に対し『軍事的解決という選択肢は無い』とあり( http://kobajun.biz/?p=31681 )、北朝鮮が最も恐れるのは『中国が後ろ盾になった北朝鮮国内のクーデター』だ( http://kobajun.biz/?p=31697 )とありました。
こうした分析こそ冷静な的を得たものだと思うのですが、日本国内の報道の多くはそうではありません。
まさに『北朝鮮を選挙の道具として、安倍首相が最大限に有効活用できるよう』な報道を展開しているとしか思えません。
そしてリベラルな立場をとる政治家を、ドサクサに紛れこの際政界から駆逐しようとするかのごとき『新党結成』の動き。
そうしたやり方は議論することを頭から否定する姿勢の裏返しであり、安部自民党と本質は変わりません。
このような政権、このような報道体制、そしてこのような政治の流れが続けば、今後私たちの国はどうなるのでしょうか?
今度の選挙『棄権という選択肢はあり得ない』、そうではありませんか?