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ほくそ笑むバシャル・アル・アサドとウラジミール・プーチン、肩を落とすメキシコ、イラン、日本、ヨーロッパ
トランプ大統領の無分別により、世界は国家的エゴの角突き合いの場と化す
サイモン・ティズダル / ガーディアン 2016年11月9日
ドナルド・トランプが勝利を収めたことにより、別の場所で勝利を手にした人間たちがいました。
シリア大統領のバシャル・アル・アサドもその一人です。
国際社会から孤立したこうした人間たちは世界中に散らばっていますが、アメリカ共和党大統領候補の予想外の勝利が自分たちの立場をどう変えるのか、まる一日以上をかけて分析と検討を行った事でしょう。
5年以上続く内戦で国民が流した血で全身を真っ赤に染め上げた酷烈無惨な男、バシャル・アル・アサドはトランプ・ショックによって大きな勝利を手にした人物のひとりですが、一方では失うものの方が大きい人間たちもいます。
ウラジミール・プーチンは、勝利者の中でも上位にランクされる人物です。
2人の人物はこれまで顔を合わせた事はありませんが、トランプはこれまでロシア大統領に対し西側主導者としては異色とも言える好意を示してきました。
選挙戦の最中、トランプはオバマ大統領とは相反する見解を明らかにし、一例としてプーチンとの取引においてロシアによるクリミア半島の違法な併合を認めることを提案しました。
ロシアは今回の大統領選挙において、民主党と選挙プロセスに干渉する秘密工作のためオンラインでのハッキングを行っていましたが、トランプはこの点には言及していません。
さらには軍の総司令官として、NATOに加盟する東欧諸国がロシアによって脅かされる事態に陥ることがあっても、同盟国に対し直ちに軍事的援助を行うつもりはないと発言し、加盟各国をあわてさせました。
シリア・イラク問題については、トランプは最優先事項とすべきはイスラム国(ISIS)の妥当であり、シリア・アサド政権の打倒が必要だとは考えていないと発言し、おかげでアサドは大きな安堵のため息をつきました。
ロシア軍が主導するアレッポ東部を始めとするシリア国内での情け容赦ない空爆と軍事行動について、国連は戦争犯罪にあたる可能性があると繰り返し避難していますが、トランプはこの問題についてロシアを非難しようとはしていません。
アメリカで政権の移行に向けた手続きが進行している隙をついて、ロシアが同盟国であるアサド政権のため、アレッポ全域を奪還する軍事行動を強める動きをとっていることが、各方面で確認されています。
表向きイスラム国(ISIS)への戦いを展開していると標榜しながら実際にはアサド政権に対立する反体制派への激しい攻撃を展開しているロシアの態度について、トランプは批判めいた言葉を口にしたことは一切ありません。
シリアの一般市民と同様、トランプ・ショックによって敗者の地位に落とされてしまったのがアフガニスタン国民です。
彼らはこれまでさんざんな目に遭わされてきた現実をトランプが一層解決が困難な方向にねじ曲げてしまう事を、目の当たりにするかもしれません。
トランプはこれ以上アメリカがアフガニスタンと関わり合う事は国家の利益に反すると考えており、タリバンだろうがアルカイダだろうが彼らに任せれば良いと考えています。
そして中国の習近平総書記は最高の気分を味わっていることでしょう。
習近平は強権を持つ権威主義の象徴とも言うべき人物であり、準独裁者であり、そういう意味ではトランプがかねてから称賛するプーチンと同種の人物です。
習近平とトランプは個人的関係であればうまくやっていけるでしょうが、互いに国家を背負って向き合った場合には、習近平の方は少し立場が微妙になります。
予測不能のトランプの変わり身、そして中国とアメリカの貿易関係がこれまで通りに行くのかどうか心配しなければなりません。
しかしオバマ大統領が進めてきたいわゆる『アジア重視政策』をトランプが批判していることは、習近平にとっては愉快であるに違いありません。習近平はこの政策の目的が中国を抑え込もうとする意図に基づくと考えてきたからです。
トランプがその関心をアジアから転じることが中国が南シナ海で行っている違法な領土拡張政策を加速させることへの障害を取り除き、台湾への圧力を増加し続けることにも青信号を点灯させることになれば、中国政府にとっては願っても無い展開になります。
アジア全域を見回して最大の敗者をさがすとすれば、それは日本の安倍晋三首相です。
安部首相は米国とのより緊密な軍事関係に日本の国運を賭けてきました。
トランプは北朝鮮の脅威のこれ以上の増大を阻止したいのであれば、日本と韓国はそれぞれ自前で核兵器を調達することも含め、自分たちの軍事能力を高める取り組みをもっと積極的に行うべきだと発言してきました。
万が一にも北朝鮮を核攻撃するというトランプの脅迫が現実になってしまえば、この地球上の全員が敗者の位置に突き落とされてしまうことになります。
〈 後篇に続く 〉
https://www.theguardian.com/us-news/2016/nov/09/donald-trump-victory-us-election-winners-losers
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トランプ大統領が誕生することが決まり、これで太平洋を取り囲む大国にはトランプ、プーチン、習近平、そして日本の安倍首相と保守タカ派の人物ばかりが顔を揃えることになり、国際社会の未来にも希望が遠ざかったように見えます。
しかし嘆いてばかりもいられないのは、私たちが生きていかなければならないのはまさにその場所だという事です。
コスモポリタン振る訳ではありませんが、市民同士の連携とコミュニケーションが増々大切になると思います。
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【 2016スーパームーン・ベストショット選 】
アメリカNBCニュース 11月14日
11月14日、1948年以来月の軌道が地球に一番近くなりました。
次は2034年になります。
カナダ、トロントのCNタワー越しのスーパームーン。(写真上)
ギリシャ、アクロポリスの丘のプロピュライア越しに。(写真下・以下同じ)
香港、観覧車越しに。
スペイン、コルドバのアルモドバル城越しに。
http://www.nbcnews.com/slideshow/stunning-views-moon-orbits-closest-earth-1948-n683481